【深掘り】那覇で有事避難訓練 自治体拡大も 識者「軍備増強へ機運」


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取材に応じる(右から)消防庁の信夫秀紀国民保護室長、知念覚那覇市長、県の嘉数登知事公室長=21日、那覇市役所

 那覇市で21日、弾道ミサイル飛来を想定した住民避難訓練が初めて実施された。ロシアのウクライナ侵攻などを受けて県民の中でも有事への不安が高まりつつある中、県都が訓練を実施したことで今後、他の県内自治体に訓練が広がる可能性もある。

 一方で訓練の実効性を疑問視する声や、訓練の積み重ねが軍備増強の機運につながっていくとの指摘もある。

 「ミサイルの通過時間より2分早く避難でき、非常にスムーズだった」。避難訓練後、知念覚市長はこう評価した。訓練では車いす利用者の避難を消防団が手伝ったが、実際に起こった場合は避難者同士で助け合うことも予想される。短い時間で避難するためのハードルは高い。

 国は弾道ミサイル飛来時の避難行動として、(1)屋外にいる場合は近くの建物か地下に避難する(2)建物がない場合は物陰に身を隠すか地面に伏せて頭部を守る―などを示している。那覇市内に避難所は117カ所あるが、地下施設を備えるのは、二つしかない。消防庁の信夫(しのぶ)秀紀国民保護室長は「(訓練が)万能というより、取れる最善の策を取っていただくということだ」と説明した。

 従来、弾道ミサイル避難訓練は主に北朝鮮の動きを受けて行われてきた。今回の訓練で、内閣官房の職員は昨年8月に中国が発射した弾道ミサイルが与那国島から約80キロの海域に落下したことに言及し、「連日ウクライナでは多くの尊い人命が失われている。万一に備えて訓練は大切だ」と強調した。

 今回の訓練に自衛隊は参加しなかったが、知念市長は国民保護で「自衛隊がどういう協力ができるのか密に話し合っていきたい」とも述べた。

 市民団体や識者からは、軍事攻撃を想定した避難訓練を繰り返すことは軍備増強の機運につながりかねず、かえって沖縄のリスクを高めるとの指摘もある。知念市長は「これ(訓練)が防衛費増額とどういう因果関係が生まれるかは判断がつかない」と述べるにとどめた。 (伊佐尚記、梅田正覚)