岸田文雄首相は23日の施政方針演説で、「南西地域の防衛体制の抜本強化」を打ち出した。政府が昨年末に閣議決定した安全保障関連3文書の内容を踏まえ、沖縄の基地負担増に直結する防衛強化の方針を明確にした形だ。演説では「装備の維持や弾薬の充実」にも触れており、日米安全保障協議委員会(2プラス2)で合意された米軍嘉手納弾薬庫地区(読谷村、沖縄市など)の自衛隊との共同使用の拡大など、沖縄が日米の「軍事要塞(ようさい)化」する動きは今後さらに顕著になりそうだ。
防衛力の強化を強く打ち出す中、外交政策では「新時代リアリズム外交」を掲げた。「外交の基軸」に「日米関係」を据えたが、中国の軍事的台頭を念頭に政府が指摘する「台湾有事」を避けるための具体的施策を明らかにすることはなかった。
「外交・安全保障」の課題として安倍、菅政権から続く、米軍普天間飛行場の辺野古移設の推進の立場は堅持した。一方で、昨年の施政方針演説では盛り込まれた「沖縄の皆さんの心に寄り添い」との表現は省かれた。
首相就任直後の2021年10月、同12月の所信表明演説で言及していた「丁寧な説明」「対話による信頼」も消えた。沖縄振興の基本方針である「強い沖縄経済」を「外交・安全保障」の課題に加えた点には、政府が明言を避けてきた「基地と振興」のリンク論も透ける。
強引さばかりが目立つようになってきた政権が声高に叫ぶ「国防の危機」を前に、国防の最前線に立たされる沖縄の声はかき消されつつある。
(安里洋輔)