帰る場所ない青年と〝おせっかい〟が育んだ絆 福祉事業所を立ち上げた男性の思い 沖縄・読谷


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作業場で仲宗根寛和さん(右)と談笑しながら製作を続ける金城睦一さん=12日、読谷村波平(小川昌宏撮影)

 工賃を支払いながら障がい者の雇用を支える就労継続支援B型事業所。読谷村にある開所1年目のB型事業所「モモ」は金城睦一代表(76)と利用者で発達障がいがある仲宗根寛和さん(45)の親子のような絆が開所のきっかけとなった。時に“おせっかい”とも言われる金城さんの優しさに利用者は支えられる。今や利用者が6人に増え、事業所には笑顔が絶えない。

 出会いは約15年前のこと。金城さんが営む運転代行会社に仲宗根さんが面接に来たことがきっかけだった。30歳を前にしていた仲宗根さんは、それまで52回も面接に落ち、職に就くことができていなかった。両親を亡くし、他の家族ともうまくいっていない。帰る場所がなく、当時は公園などで生活していた。

 金城さんは「誰かに(仲宗根さんのことを)引き継ぐまでは面倒を見よう」と採用し、自立の支援もした。当時は障がいの診断を受けておらず、役所では「若いから仕事できるだろう」と障がい者向けの十分な支援を受けられなかった。

 そこで受診させ、発達障がいの診断を受けた。役所で支援を申請し、行政サービスを利用できるめどが立ったこともあり、仲宗根さんは一人暮らしを始める。金城さんは毎日電話をかけ、身支度の確認までしていた。仲宗根さんは「『風呂入ったか』『歯磨いたか』とうるさかった」と振り返る。

 金城さんが60歳で退職したことを契機に2人で畑作業を始めた。旅行に行ったこともある。金城さんは「親子のような、友達のような関係」と言い「当時は笑顔も少なかったが、今は笑顔も出るししゃべるようになった」と仲宗根さんの変化を喜ぶ。

 しかし年を重ね「自分に何かあったら面倒は誰が見るのか」と心配を募らせてきた。そこで支援できる体制をつくろうと福祉事業所を立ち上げた。息子の金城睦丈(むつたけ)さん(49)が立ち上げをサポート。B型事業所を運営する県外の知人を呼び、助言をもらった。役所とのやりとりも重ね、開所に至った。

 木工が得意な利用者のために専用の作業場を2カ所も作ってしまうなど、利用者への“おせっかい”も止まらない。

 「利用者がいきいきと楽しく過ごせればいい」と金城さん。仲宗根さんは「親以上に感謝している。恩返ししたい」との思いで日々事業所で頑張っている。
 (金盛文香)