「リスキリング」本来の意味は? 岸田首相の発言は「生涯学習と混同」 啓発に取り組む後藤宗明氏に聞く


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「どんな会社にもリスキリングは必要」と話すジャパン・リスキリング・イニシアチブの後藤宗明代表理事=那覇市泉崎の琉球新報社

 岸田文雄首相が国会で、産休・育休中の女性の学び直しを支援すると答弁したことで、批判を含め注目を集めている「リスキリング」。啓発活動をしているジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明氏は「リスキリングは個人が自由に取り組むものではなく、実施主体は組織や企業。会社の新しい方向性に向けて新しいスキルを従業員に身につけてもらうもので、業務だ」と説明する。

 「リスキリング」は米国発の言葉。後藤氏は「学び直し」と訳されていることが不十分だと指摘する。岸田首相の育休中の学び直し発言について「個人が時間と費用を捻出して学ぶ生涯学習とリスキリングが混同されている。そもそも組織が実施するリスキリングの議論ではない」とした。

 本来のリスキリングを「外部環境の変化に合わせ、企業を変革していくために組織が従業員に新しいスキルを身につけさせ、新しい業務に就かせること」と規定。学ぶことは要素の一つだが、重要なのは新しい業務に就かせることだと強調する。

 背景には、技術の進化で生産性が向上するとともに、人間の雇用が失われるという社会的課題がある。2013年に、オックスフォード大のマイケル・オズボーン教授らが論文で「10~20年の間に米国の総雇用者の約47%の仕事が自動化され消失するリスクが高い」と発表してから10年になる。既にいくつかの職種ではAIとロボットで自動化が始まっている。

 雇用が失われる一方でデジタル時代に必要なスキルを持つ人材は不足している。このギャップを埋めるのがデジタル人材育成というリスキリングだという。

 沖縄の企業も無関係ではいられない。「若い人が就職先を決めるときに重視するのはそこで成長できるかどうか。リスキリングの機会がない企業は選ばれなくなる」と影響を指摘する。

 さらに「所得を向上させるには、今までのやり方を変えないといけない。例えば観光客相手の店はデジタルで多言語発信し、予約もできるようにすれば、(客が)海外にいる間に売り上げの見通しを立てることができる。こういったことの積み重ねがリスキリングだ」と話した。

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 10日午後3時から那覇市の県立博物館・美術館講堂で、公開シンポジウム「企業の成長に必要なリスキリングとは」(県主催)が開かれる。後藤氏が基調講演などが行われる。入場無料。問い合わせは県マーケティング戦略推進課098(894)2030。

(玉城江梨子)