【詳報】10代妊産婦に「居場所」を、沖縄県若年妊産婦支援促進啓発シンポ


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パネル討議に登壇した(左から)儀間博嗣氏、三浦耕子氏、野村れいか氏、棚原喜美枝氏=1日、那覇市おもろまちの県立博物館美術館講堂

 沖縄県は1日、2022年度県若年妊産婦支援促進啓発シンポジウムを那覇市の県立博物館・美術館講堂でオンライン併用で開いた。「10代の妊娠・出産・子育て―その現状と課題から必要とされる支援とは―」をテーマに、パネル討議や調査報告、もちづき女性クリニック(栃木県)の望月善子理事長による基調講演があった。「10代妊産婦の支援現場と考える『居場所』と今後の展望」をテーマに行われたパネル討議では、県立中部病院婦人科の三浦耕子医師、南風原町民生部こども課の儀間博嗣課長、一般社団法人「ある」の棚原喜美枝代表理事、九州大大学院講師で公認心理師・臨床心理士の野村れいか氏が登壇し、それぞれの立場から10代妊産婦へ求められている支援や居場所の意義を語った。ファシリテーターは琉球大の本村真教授が務めた。当日の内容を詳報する。

(嶋岡すみれ)


お母さんが育つための場 三浦耕子氏(県立中部病院婦人科医師)

 10代で妊娠出産する人は、沖縄は常に全国の2倍いる。14~15歳での出産の背景と問題は、不登校や中卒が多いこと、妊娠の相手がほぼ同世代であること、10代で妊娠を繰り返すことなどがある。私たちは子宮内避妊具を使うよう勧めている。避妊することで、その人が成長する時間が生まれる。

 また「17歳問題」もある。17歳は「もうすぐ大人」という目で見てしまい、支援の隙間に入り込んでしまう。17歳は大人ではない。一人で頑張らせてはいけない。学校を続けるための方策も必要だ。学校は妊娠した生徒を排除しないでほしい。

 10代妊産婦の支援は年齢層によって必要なことが変わる。当事者の声を聞いてデータを集めないといけないので、そのためにも居場所が必要だ。

 居場所はお母さんが育つための場所。辛抱強く、赤ちゃんよりもお母さんの話をする。また生まれた子の居場所も絶対に必要だ。

 子どもがみんな保育園に行けるようにするなど、家庭外の目が入るような仕組みを作っていくのは、子どもの安全のために大切だ。


各機関と連携し孤立防ぐ 儀間博嗣氏(南風原町民生部こども課課長)

 南風原町には「ママ笑room」という若年妊産婦の居場所がある。若年妊産婦を孤立させないために心がけているポイントは(1)居場所との連携(2)保健師との連携(3)学校、保育所との連携(4)そのほか機関との連携。

 南風原町では2週間ごとに「ベビー会議」と呼ぶ定例会議を実施している。構成はこども課職員、居場所のスタッフ、保健師で、経過報告や支援方針の確認、関係機関との情報整理などをしている。

 居場所は安心する所であり、傾聴の場。指導的な対応はしない。未成年で保護者の同意が必要な場合もあるが、親への連絡や介入依頼は慎重にしている。

 居場所があるメリットとしては、居場所内での何気ない会話から状況把握がしやすい。また保育園の利用など所属先や見守り先を見届けて、自立するための見通しが立つまで寄り添った支援ができる。

 若年妊産婦が居場所を利用する中で、誰かに相談したり行政と関係機関がつながったりするメリットを感じてもらいたい。それにより支援介入が行いやすくなり、虐待予防や貧困の連鎖の防止にもつながると思う。


子育て自己責任にしない 棚原喜美枝氏(一般社団法人「ある」代表理事)

 2011年ごろから、10代のママたちの支援をしようと、年に3~4回くらい集まりほそぼそと支援してきた。

 支援の中で見えてきた課題としては、世代間連鎖の悪循環が起きているが、公的支援、高等教育、就労につながりにくいことなどがある。何より大人との信頼関係が結びづらい。大人が自分をコントロールしたり指導したりするというのを経験的に学んできた子たちなので、私たちは受容することに立ち返らないといけないし、何度も繰り返さないと受け入れてもらえない。

 現在は月に2回、那覇と浦添で居場所を開いている。個別の送迎をつけるようになって参加者が増えた。彼女たちは免許を取るお金がない。車がないと保育園にも預けられない。二重三重にハンディを持っている。

 10代で妊娠出産後も、伴走型の息の長い支援が必要。また保育園の利用の手助けや、点在している支援機関が連携しネットワーク化することで、より協力が必要なケースにも対応できるようになる。10代ママをひとりぼっちにしないために、子育てを自己責任にしない沖縄社会にしていきたい。


切れ目なく支援する必要 野村れいか氏(九州大大学院講師)

 人間の尊厳というのは「他ならない自分」を保障されるところにある。自分で自分を愛することも大切だ。だが、居場所に来るような子たちは「自分を愛するってどういうこと」といったように、愛された実感や体験がない子が多い。大人から見たら自分を大事にしていないように見える行動でも、その子たちが生き延びるにはそうせざるを得なかった、という体験を認めてあげるのが大事だと思う。

 10代妊産婦の支援は成長の基盤である安心・安全を感じられたり、自己選択や自己決定をする機会があったりすることが大切だ。特に、思いを共有できて評価なしに受け入れてもらえるのは居場所の良さ。そこから困っていることに気付き、自分で対処できない時は他者に助けを求めてもいいことや、話を聞いてくれる大人がいるといったことを学べる。

 虐待による死亡事例で最も多いのが0歳0カ月。妊娠・出産の時期から切れ目なく支援する必要がある。また居場所や支援につながる事ができない、孤立している子へどうアプローチできるのか、考え続けないといけないと思う。