ジャーナリストと若き研究者の3人の射手が、沖縄が抱える構造的差別と不条理をリレー形式で見事に射貫(いぬ)いた「直近14年間の沖縄の年代記(クロニクル)」である。
本書は2008年から雑誌『世界』(岩波書店)で始まった書名と同じ連載を、一冊にまとめたものである。自己決定権、普天間問題、オスプレイ配備、オール沖縄の誕生、戦後70年、米兵犯罪、1千万人観光時代、首里城焼失、コロナ感染拡大、五輪初金メダル、復帰50年――。戦後78年間に「変わる沖縄、変わらぬ沖縄」が、毎回見開き2ページの読み切りコラムで展開されている。
この国の中で、沖縄が果たす役割は何か。米外交官で歴史学者のG・H・カー(Kerr)は「日本にとって琉球は単に軍事的な前線基地」かつ「一種の植民地」であり、「日本が非常な苦境に立たされたとき、もしそれで本土が救われるのであれば、沖縄は日本にとってexpendable(消耗品)である」と表現した。
その上で「日本の政府はあらゆる方法をもって琉球を利用するが、琉球の人々のために犠牲をはらうことを好まない」(以上、 G・H・Kerr 『琉球の歴史』1953年刊、序文より)と断じている。
カーが断じた日本の中における沖縄のさまざまな不条理、不都合な事実と真実を、本書の3人の射手たちは、戦後史の中から、時に生活の中からすくい上げ、その核心を射貫いていく。射手は当初、基地・安保担当と福祉・医療に造詣の深い2人のジャーナリストだ。そこに「グローカル」な視点を持つ研究者が加わり、本土復帰への異論や琉球独立論まで、検証領域を広げ、訴求力に鋭さと重厚さを増幅させている。
本書でも引用しているが、米歴史学者のもう一人のKerrは「歴史とは現在と過去の対話である」(E・H・カー)と表現した。短文の中に凝縮された14年間の沖縄の現在と過去の対話を通読することで、「三本の矢」が射貫く沖縄(日本)問題の本質と核心を手中にできる。
各コラムの中に埋め込まれた「核心」を示すキーワードを拾い出す。そんな楽しみも与えてくれる好著である。
(前泊博盛・沖縄国際大教授)
やましろ・のりこ 1949年那覇市生まれ。沖縄タイムス論説委員など歴任。
まつもと・つよし 1965年那覇市生まれ。琉球新報編集局長などを経て現在常務取締役。
おやかわ・しなこ 1981年沖縄市生まれ。琉球民族独立総合研究学会共同代表。