2007年に米海軍の掃海艇2隻が与那国町の祖納港へ入港した。当時のケビン・メア在沖米総領事は本国に「与那国島が台湾海峡有事の際に(機雷からの防御などを行う)対機雷作戦の拠点になり得る」と報告。米政府は2000年代から「台湾有事」における対機雷作戦に使うため、県内、特に与那国島の民間港の拠点化を想定していた。
米軍は当初、掃海艇の入港目的を「友好親善と乗員の休養」と説明していたが、隠されていた実際の目的は有事を想定した港湾施設の事前調査だった。メア氏自身が著書で、ネグロポンテ国務副長官(当時)が「ゴーサイン」を出して実行した政府としての計画だったことを明かした。09年には対象を広げて石垣市石垣港にも米軍の掃海艇を寄港させた。
メア氏は与那国島について祖納港には掃海艇4隻が一度に入れる十分な深さがあると説明した。さらに約2千メートル滑走路を持つ与那国空港を使えば、ヘリで掃海艇を支援できるとし「台湾に最も近い日本領土の前線として、台湾海峡有事の際の機雷対策作戦の拠点となることが予想される」と記している。
メア氏が想定していた機雷作戦は現在でも米国内で有効だと考えられている。元海兵隊将校のマシュー・カンチアン氏は米海軍大学校の報告書で台湾海峡は「浅く狭いため、機雷敷設に有効な海域だ」として機雷作戦に取り組む必要性を強調した。一方、米海軍大学校の中国分析では、中国側も機雷作戦を研究・訓練しており、台湾封鎖のために機雷作戦を採用する可能性が指摘された。
琉球大の山本章子准教授(国際政治史)は「有事に機雷除去作戦の拠点となれば、中国軍は日米の掃海活動や機雷設置を妨害するために与那国島を攻撃するだろう」と指摘した。また、自衛隊や米軍が与那国島で基地や演習場以外で森林など実際の地形を使う「生地訓練」を試みようとしているとし「有事に与那国島が最前線となり、島全体が戦場となるとの想定を意味する」と語った。
21年の自衛隊統合演習や22年の日米共同統合演習では、自衛隊が祖納港や与那国空港を使った。共同演習で米軍は空港の使用こそ避けたものの、初めて与那国島で訓練した。今後、自衛隊と共に米軍が与那国島での活動を増やし、民間の港や空港を含めた島全体を活用しようとする計画が見え隠れする。
(明真南斗)
連載「自衛隊南西シフトを問う」
2010年の防衛大綱で方向性が示された自衛隊の「南西シフト(重視)」政策の下、防衛省は奄美、沖縄への部隊新編、移駐を加速度的に進めてきた。与那国、宮古島に続き、今年は石垣駐屯地が開設される。22年末には戦後日本の安全保障政策の大転換となる安保関連3文書が閣議決定され、南西諸島の一層の軍備強化が打ち出された。南西シフトの全容と狙い、住民生活への影響など防衛力強化の実像に迫る。