prime

町の8割が米軍基地、嘉手納町長選が3期連続「無投票」となった理由<ニュースのつぼ>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
4期目の当選を受けて万歳する當山宏氏(中央)=1月31日、嘉手納町嘉手納の北区コミュニティーセンター

 【嘉手納】1月31日に告示された嘉手納町長選挙は現職の當山宏氏(70)以外に立候補者がなく、3期連続の無投票となった。1期目の選挙から町民党を掲げた當山氏。町面積の8割を米空軍嘉手納基地が占める基地の町は、保守と革新の間で負担や被害の軽減という基地政策の方向性が一致しており、争点になりづらい。當山氏は、街づくりでは基地交付金などを活用した公共施設の整備や教育、福祉に力を入れてきた。減少が止まらない町人口の流出に歯止めをかけようと各種政策を推進。安定した町政運営は保守、革新の両勢力から支持され、4期目も盤石の体制を固めるだけの地位を築き上げてきた。一方で、3期連続無投票での長期政権に支援者の中でも「投票を通して町民の審判を仰ぐ必要はあった」という声も聞かれる。

■対抗馬なし

 嘉手納町の面積は15.12平方キロで、このうち約82%が米空軍嘉手納基地に接収されている。残る2.72平方キロに人口約1万3千人がひしめいて暮らしている。住民居住地域の目と鼻の先には嘉手納基地が広がり、航空機の騒音と排ガスの悪臭は町民にとって共通の問題だ。県内の基地所在市長村の選挙はしばしば米軍基地の問題を争点に保革が戦う構図が展開されるが、ある革新側の町議は「県と国の議題に嘉手納基地の返還は、メニューにすら上がらない。このような状況では現状の基地被害を増大させないことしか争点になりえないが、これ以上の被害を被りたくないのは保革で一致している意見だ」として、基地問題が争点にならない現状を説明する。

 當山氏は初当選の時から、子ども医療費や給食費の無償化に取り組んできた。2期目の後半からは町内に住宅を取得する人に対して補助金を交付する定住促進事業を打ち出すなど、1986年の1万4千人台をピークに減少する人口問題の課題解決に向け、積極的な姿勢を見せてきた。

 2022年11月に明らかとなった防錆(ぼうせい)整備格納庫移設計画についても、当初から反対の姿勢を貫いており「バランス感覚があり、町政を安定的に進めている」という声も多い。

■長期政権、懸念も

 安定から来る問題を懸念する声もある。3期連続の無投票は保革の枠を超えたリーダーシップの評価との受け止め方もあるが「一般論として長期政権になるのであれば、投票という形で住民からの評価、要望を可視化した方がいい」と語るのは長年の町政を知る関係者。「現職の当選が確実視されていたとしても、論戦と投票を通して町内の意見を集約することは、将来に生かせるはずだ。町政のかじ取り役として緊張感も持てる」と付け加え、安定から来る町政の停滞を懸念する。

 実際に町に対する要望は少なくない。住みよい町を目指す一方で、町経済界からは「商売を始めやすい環境づくりにも力を入れてほしい」という声も聞かれる。これまで高齢化などに伴う中心市街地の空き店舗対策が実施されてきた一方で、駐車場の不足が問題視されてきた。現状では、昼間の公共駐車場は満車の状態が多い。町商工会と観光協会は土地面積が少ない街づくりの課題解消として、土地の高度利用や地下駐車場の整備を求めている。商工会関係者は「町で商売をしたいという話をよく聞くが、店舗を構えたくても駐車場がなく、踏み出しにくいという人が多い」と話す。

■限られた土地

 さらに、基地あるがゆえの土地の少なさは人口流出の原因にも挙げられている。不動産関係者は「隣に広大な土地を活用する読谷村があり、若い人たちが流れている」とした上で、「町が主導する細かな区画整備が必要だ」と語る。基地に土地のほとんどが接収されている特殊事情を抱える嘉手納町にとって、限られた土地の利用計画は死活問題となっている。

 當山氏は今回の当選証書交付式で、4年後は「人口を増やし活気のある町にしたい」と抱負を述べた。無投票ではあったが、町政のかじとりをしつつ、大小問わず町民の声をすくい上げることが今後も求められる。

(名嘉一心)