prime

冷戦後、島しょ防衛重視 変容する計画 3文書改定「異次元」の強化へ<自衛隊南西シフトを問う>17


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
ボートで着上陸して銃を構える陸上自衛隊水陸機動団と米海兵隊=2020年2月、金武町の金武ブルー・ビーチ訓練場

自衛隊の「南西シフト」(重視)の萌(ほう)芽(が)は冷戦後の1990年代にさかのぼる。与那国町を皮切りに宮古島市、鹿児島県奄美大島での駐屯地開設が進み、3月には石垣市で新たに部隊が発足する。南西シフトは2022年末に閣議決定された安保関連3文書を基に、さらなる増強につながる「第2段階」へ変容しようとしている。

冷戦時代、自衛隊はソ連を主な脅威と捉え、北方に重点を置いていた。冷戦終結に伴って部隊再編が検討される中で、1995年には沖縄の第1混成団を第15旅団に格上げする方針が決まった。

部隊配置のみならず、作戦面でも島しょ防衛が重視されていった。2000年に陸自が部隊運用の方針をまとめた資料「野外令」は離島防衛について、本土防衛の警戒・監視拠点であることや、敵が本土侵攻の中継基地に使う可能性などを指摘。「離島の作戦」という節を設け、事前に部隊を配置して米軍と連携して島への侵攻を防ぎ、占領された場合は奪還作戦に入ると記された。

「離島の作戦」は現在の島しょ防衛の考え方と重なる。南西諸島に事前に部隊を配備しておき、緊張が高まると全国から部隊や装備を集結させる想定だ。占拠された場合に備え、離島奪還を専門とする水陸機動団も長崎県に控えている。

冷戦後の再編は当初、北方偏重から「西方重視」とされていたが、次第に中国への対抗措置で「南西」に焦点が絞られていく。10年に防衛力整備の指針となる「防衛計画の大綱」が改定され、南西諸島での部隊増強方針が打ち出された。その後、与那国島への自衛隊配備を皮切りに、南西シフトが進んだ。

与那国島に配備された部隊は当初、沿岸監視隊だったが、電子戦部隊が加わり、今後、地対空ミサイル部隊進出も予定される。08年から12年まで(一時期を除く)沖縄防衛局長を務めた真部朗氏は「沿岸監視隊だったため(地元から)受け入れられやすかった」と振り返った。ミサイル配備について、当初は念頭に「ない」と否定した上で「中国の軍事態勢が増強され活発化しており、対応措置はやむを得ない」と話した。

3文書改定で、南西シフトは段違いに加速する。第15旅団は師団への格上げが計画される。宮古島や石垣島の地対艦ミサイルが長射程に更新されて反撃能力(敵基地攻撃能力)の拠点の一つとなる可能性もある。

「野外令」を情報開示請求で入手した元自衛官で軍事評論家の小西誠氏は「なし崩し的に南西シフトが進んだ。いったん拠点を造れば、後からいくらでも増強できるという姿勢だ」と批判した。

「力の空白を埋める」。当初、政府がこう説明していた南西シフト。それとは「異次元」の増強計画が進もうとしている。
(明真南斗)

連載「自衛隊南西シフトを問う」

2010年の防衛大綱で方向性が示された自衛隊の「南西シフト(重視)」政策の下、防衛省は奄美、沖縄への部隊新編、移駐を加速度的に進めてきた。与那国、宮古島に続き、今年は石垣駐屯地が開設される。22年末には戦後日本の安全保障政策の大転換となる安保関連3文書が閣議決定され、南西諸島の一層の軍備強化が打ち出された。南西シフトの全容と狙い、住民生活への影響など防衛力強化の実像に迫る。

>>ほかの記事を読む