梅田駅連絡橋/入間しゅか 選外佳作・かそう/あさとよしや JAZZ/井上正行 背中/伊渓路加<琉球詩壇・3月11日>


社会
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梅田駅連絡橋 

入間しゅか(兵庫県)


 

JR大阪駅と阪急大阪梅田駅間を結ぶ連絡橋には毎日多くの人が行き交う。幾万の影。幾万の靴。幾万の動き続ける手と足と口!しかし、私はただの一度もぶつかった事がない。するりするりと人々は私を器用に避ける。幾万の人流を乱すにはたった一人の私は無力だった。

何本の足趾がその上を通り過ぎたのだろうか。黒い丸。吐き捨てられたガム。誰よりもこの街に詳しいはずだ。私の目はこの黒い丸に吸い込まれるように、落ちていく。落ちていく。その間も人流に支障はない。人々は私を避ける。

ぶつからない。粗末な存在証明。連絡橋から見る車の往来。美しい流れ。川ではなく、組織としての流れ。心臓をなくした血管。脳を知らない循環。巨大な街を動かす人の流れ。吐き捨てられ、踏み固められたガムを、私の靴が踏みつける。私はぶつかることのない流れに身を任せ、粗末な存在証明を捨て去るのだった。


西原裕美・選

寸評

人々が行き交う様子から、最後の自分の存在証明についての流れが面白い。


 

選外佳作1

かそう 

あさとよしや(那覇市)

 

みんな かめん かぶって おどってる
かそう だれが だれだか わからない
みんな かめん かぶって うそついて
かそう だれが だれでも かまわない

おどっておどってうそつきうそつきつつ
でもねどこかでだれかのなくこえきこえ

みんな かめん はずさず だまってる
かそう だれも かれもが かそうばで
みんな かめん したまま したままで
かそう きみも わたしも ないている 

ないてないてなきつづけたひにゃきっと
きみのわたしのかめんはどろどろどろどろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろ

 とけてしまえ
  とけてしまって 
   なくなればいい


 

選外佳作2

JAZZ

井上正行(東京都)

 

海に白い波を撒いたのはだれだったのか
誰かが作った夕焼けはどこに沈んだのか
感傷的なボーダーラインが
あちらとこちらを隔てては消えていく

嗄れた砂粒と流木は一体誰が撒いたのか
ここは誰かの箱庭だったか
私の妄想に応えるように
オリーブオイルに漬けられた
あなたの声からはJAZZが聴こえてくる

完璧な流木からは
沈みそうな夜の音が響き始める
髪の毛くらいに細く鋭くなったビブラートは
沖に流された私の心をつつき
体は揺れ、リズムを感じる
踵を踏み鳴らす指先が、ダンスする
そして、グルーヴになっていく

そして貝のように小さな
心を燃やしたくなる
視界をそのまま膨張させて
頑なな世の中を破裂させたくなる
あけすけな私の秘密を噴火させて
誰も彼もを困らせたくなる


 

選外佳作3

背中

伊渓路加(那覇市)

 

だれかの腕に抱かれた
あなたの背中が 透明に見えた
わたしの腕は だれかの腕で
だれかの腕は わたしの腕であった
あなたは 無数の人を
その皮膚に まとってみせて
いつも 眩しく
ひとつの土地みたいだった
人っ子いない かぎりない校庭の
いたずらに描いてみせた
地上絵 だった
わたしは あなたを 旅したい
土を 踏みしめ
空を 仰いで
森を かきわけ
湖を すすんで
時々 つかの間の息つぎを
水面の境に見た
わたしと あなたと だれかの顔
どこまでも匂やかに
交じって たゆたっていた