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ウクライナ停戦提言 日本が主導し働きかけを<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 ロシアがウクライナに侵攻して1周年に当たる2月24日に中国政府が興味深い文書を発表した。

 <(文書では)ロシアとウクライナの双方が歩み寄って全面的な停戦を目指すよう呼びかけた。ロシアへの制裁をやめることも各国に求めた。中立的な立場をアピールしたが、和平に向けた具体的な仲介策は打ち出さなかった。/中国政府によると王毅共産党政治局員は「国際社会の最大公約数」を形成するのが文書の目的だとコメントした。/文書はこれまでの中国の主張を列挙。ロシアとウクライナの双方に「対話を再開し情勢の緩和を進める」ことを求めた。核兵器や生物・化学兵器の使用に反対すると強調。原発や民間施設への攻撃も避けるべきだと指摘した>(2月24日本紙電子版)。

 現時点でウクライナ、ロシアの双方が「まだ勝てる」と思っているので、停戦が直ちに実現することにはならない。しかし、ロシア対ウクライナを支持する西側連合の戦争をこのまま放置しておくと第三次世界大戦に発展しかねない。いずれかのタイミングで停戦が必要になる。

 日本政府内でも情勢を冷静に判断している人がいる。今井尚哉内閣官房参与(エネルギー担当)だ。今井氏は安倍政権時代に首相補佐官兼秘書官を務めた権力の論理を知り尽くした人だ。外交にも詳しい。2月20日付「週刊エコノミスト電子版」(毎日新聞社)に掲載された今井氏のインタビューが重要だ。

 今井氏は<今回はどう考えてもプーチン露大統領が悪い。「領土を侵すものは許してはいけない」というウクライナのゼレンスキー大統領に理がある>と自らの基本的立場を明らかにする。

 その上で<だが、国連の常任理事国の一角が戦争を起こした時のマネジメントについては国際社会は解を持っていない。国際社会が永遠にロシアの侵攻を認めない中で、どういうふうに落ち着かせていくのか、ということしかない。/だから、まずは停戦だ。どうして岸田政権は停戦に向け仲介に動かないのか、僕は怒りすら感じている。これが一番だ。/青い議論かもしれないが、太平洋戦争の教訓として、(1)絶対戦争はだめ、いかなる理由でも止めなければならない(2)経済はブロック化してはいけない―と学んだ。僕らは戦争の話を聞かされて育ち、戦艦大和が沈んでいくときの兵士の話を聞いてきた。そして、とにかく戦争しないと決めた。なのになぜ、停戦を考えないのか>と述べる。

 筆者も今井氏の意見に全面的に同意する。今井氏は今後日本が取るべき外交政策についてこう述べる。

 <ロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ東部4州を力で押し戻すのは極めて厳しい。しかし、国際社会は絶対にロシア領とは認めない。だから、いつか、どのようにしてか、再びウクライナが実効支配できるよう、何年かけて戻すか、という話だ。武力では無理だ。レオパルド2など最新の戦車を300台供与しようと、ロシア軍を分断はできても、押し戻せない。今度は、空中戦になる。大切な命がもっと失われる。/日本は今年、広島でサミットを開く。表向きG7の共通メッセージでいくらプーチンの批判をしてもかまわない。「西側の価値を守りましょう」と制裁を一段と強化するのも否定しない。だけれども、その裏で、これからとにかく、どう停戦に持っていくか、G7は非公式会合を持とうなどと、日本としてリードし、働きかけるべきだと思う。トルコもイスラエルもエジプトもみんな心配している>

 人間の命をこれ以上失わせてはならないという健全なヒューマニズムに基づいて今井氏は停戦を強く訴えている。岸田首相が今井氏の提言に対して「聞く力」を発揮することを期待する。

(作家・元外務省主任分析官)