安保という「大きな言葉」を前に「民の声」はかき消されるのか 「民主主義を残したい」と住民投票求め続ける若者たち 沖縄・石垣


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(左から)「石垣市住民投票を求める会」の中心的役割を担う宮良麻奈美さん=14日、石垣市。ビニールハウス内でマンゴーの手入れをする川満起史さん=15日、石垣市

 【石垣】1万4263筆。「石垣市住民投票を求める会」が市平得大俣への陸上自衛隊配備の賛否を問う住民投票実施を求めるため、2018年10~11月にかけて市内の有権者から集めた署名の数だ。当時の有権者の約4割に当たる。あれから4年余り。結局、住民投票が実施されることはないまま、基地のなかった島に16日、陸自駐屯地が開設する。それでも会を引っ張る若い世代は、次世代に「民主主義を残したい」との思いを貫く。

 住民投票を求める会は18年10月、当時20代の島内の若者が中心となって立ち上がり発足した。その3カ月前に中山義隆市長が陸自配備受け入れを表明していた。

 「反対派の運動だ」とやゆされながらも、会は1カ月で1万4千余もの署名を集めた。ただ中山市政で与党が多数を占めた市議会は住民投票の請求を否決した。会は中山市長に実施を訴えたが、市長が応じることはなかった。司法も最初の訴訟では会の訴えを「門前払い」した。

 「問題に向き合わず逃げてばかり」。会の立ち上げから中心的な役割を担う宮良麻奈美さん(30)は、政治家の姿勢にあきれた表情を浮かべる。

 一方、駐屯地建設は着々と進み、住民投票に期待を寄せて支えてくれた市民の中にも諦め感はある。ただ「ここで終わるなら最初からやっていない。おかしいことにはおかしいと声を上げ続ける。それが約1万4千人の思いに対する会の責任だ」と前を向く。

 21年4月、宮良さんら島の30代の3人は、住民投票ができる権利があることを確認する訴訟を新たに起こした。

 その原告の内の1人が島で農家として汗を流す川満起史(たつし)さん(35)だ。「市民の1人として、いてもたってもいられなくなり」原告に加わった。

 国防の観点から考えると、配備は「致し方ない」との思いもある。一方で「民主主義の正しいプロセスを経ていない配備は反対だ」と明言し、市民の声がすくい上げられない現状に憤る。

 安全保障という大きな言葉に民の小さな声がかき消される。

 それでも「(島に)民主主義を残すため諦めない、やり続ける姿を次の世代は見ている。それが希望だ」。
 (照屋大哲、大嶺雅俊)