【石垣】曇り空の隙間から、時折青空が顔をのぞかせる。石垣市平得大俣に陸上自衛隊石垣駐屯地が開設した16日、配備を巡り、賛否が分かれる市民の心情を反映したような空模様が広がった。沖縄戦体験者は島を往来する迷彩色の車両を見て「反対」の思いを強くした。尖閣諸島を有する海域で操業する漁師は「安全」な海を求め「賛成」と胸を張った。市民が賛否で割れる中、石垣島はこの日「基地のある島」になった。
駐屯地近くで農業をいとなむ男性(71)は陸自配備に反対し続け、「島に基地はいらない」と記した手作りの木製プラカードを掲げてきた。この日も、畑に行く前に、駐屯地前で意思を示した。「残念な気持ちだね。島が標的になる」。年季の入ったプラカードの持ち手をぎゅっと握った。
小雨が上がった正午前。駐屯地から最も近い位置にある開南地区では、82歳の女性が自宅で昼食用の「野菜のおつゆ」を作ろうとしていた。イスに腰掛けた女性は「もう大変よ」と何度も繰り返し「基地のない島がよかったさあ」と語った。迷彩服の隊員や軍事車両を見ると「戦争を思い出す」。5歳だった沖縄戦時、弟をおぶった母親に手を引かれ、壕(ごう)に避難した記憶がよみがえる。母はマラリアで亡くなった。顔は覚えていない。「2度と戦争はごめんだ」
正午過ぎ、もずく漁を終え登野城漁港に戻った漁師の20代男性は自衛隊を「歓迎」する。災害時や尖閣を守るために「必要」と感じている。海人(うみんちゅ)にとって尖閣周辺は豊富な漁場で「大切な場所」。今は海上保安庁に規制され、近くで漁ができないというが「昔はおじいが尖閣近くでたくさん魚を捕っていた」。
店舗や土産品店が立ち並ぶ市美崎町では午後3時ごろ、多くの観光客が行き交っていた。アイスコーヒーを提供していた飲食店店長の男性(38)も「全然問題ない」と自衛隊を「歓迎」した。隊員は既に「飲みに来ている」といい、「お客も売り上げも増えれば」と期待した。
(照屋大哲)