陸上自衛隊石垣駐屯地開設を受け、戦争体験者などからは「ミサイルが撃ち込まれたら島は全滅だ」と戦争に巻き込まれることへの不安の声が上がった。太平洋戦争でも日本軍が駐屯し、軍の命令による強制疎開などでマラリアの犠牲になった八重山の住民。軍隊は住民を守らない―という教訓を思い起こし、「有事」を想定した自衛隊配備に強い危機感を示した。
八重山戦争マラリア遺族会の唐眞盛充会長(71)=石垣市=は「有事があれば駐屯地は攻撃対象だ。今後、石垣島がミサイルの標的になる。狭い石垣島には逃げ場がない」と危機感を抱く。唐眞さん一家は日本軍によりマラリア有病地へ強制的に移動させられ、兄の潔さん(当時5歳)はマラリアに感染し亡くなった。唐眞さんは「軍が住民を守ることはなかった。駐屯地は水源も近く、今後、本島のように水の汚染といった問題が出てくるかもしれない。国は平和外交を進めるべきだ」と語気を強め語った。
戦時中、波照間島から西表島沖の由布島に疎開した元竹富町教育長の慶田盛安三さん(82)=石垣市。当時4歳で自身もマラリアに感染し、多くの人が命を落とす姿も見てきた。「とうとう来た。怒りを通り越し、がっかりした」と肩を落とす。「政府は平和の尊さという言葉を間違った意味で使っているのではないか。武力で平和はつくれない。憲法は不戦を訴えるべきだ」。
郷土史家の大田静男さん(74)は「中国と日本は敵対関係ではなく友好関係を築いてきた。島に基地は必要ない。全国の国民が八重山の問題にせず、自分の問題として、中国との友好を訴えるべきだ」と指摘。必要なのは武力ではなく文化力を高めることだと重ねて強調した。
「元全学徒の会」共同代表や「第32軍司令部壕の保存・公開を求める会」の会長を務め、自衛隊駐屯地の地下化と沖縄を戦場にすることに断固、反対する声明を出した瀬名波栄喜さん(94)=那覇市=は「自衛隊は軍隊以外の何者でもない。軍は住民を守らないことが沖縄戦ではっきり証明された。軍の第一の任務は戦闘だ」と指摘。軍備増強が進む現状を「戦雲が漂いつつある。戦争の恐ろしさが若い人たちに伝わっていないのではないか」と憂慮し、太平洋戦争の教訓から、唯一の被爆国であることや平和憲法を前面に打ち出すことを日本政府に要望した。
(西銘研志郎、中村万里子)