歴史と尊厳を踏みにじる暴挙 韓国の「徴用工」解決策<乗松聡子の眼>


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乗松 聡子

 韓国の尹錫悦政権は6日、2018年の韓国大法院の判決で勝訴が確定した強制動員「徴用工」被害者に対し、判決通り日本の加害企業(日本製鉄と三菱重工)が賠償せず韓国政府傘下の財団が企業から寄付を募り肩代わりするという「解決策」を発表した。加害企業の責任を免除し、被害者側が加害者の責任を負うというあり得ない方法だ。

 加害側の謝罪も賠償もないというこの「解決策」は、日本軍「慰安婦」問題を解決するため15年末に当時の安倍晋三政権と朴槿恵政権が被害者抜きで定めた「日韓合意」よりさらにひどい、被害者の権利と歴史を踏みにじる暴挙である。どちらも米韓日軍事同盟を強固にするために米国が圧力をかけた。

 民族の尊厳と歴史への正義よりも、加害側の責任を認めない日本への妥協と米国追従の道を選んだ尹大統領は、この「解決策」発表直後、米国からは国賓待遇の訪米を、日本からはG7への招待と、日韓シャトル外交の再開という「ご褒美」を受けた。16日、岸田文雄首相は東京の老舗洋食店で尹大統領好物のオムライスをごちそうしたという。植民地時代から存在するこの店で、尹大統領は祖国を裏切った味を堪能したのだろうか。

 この「解決策」に対し日本のメディアはおしなべて「戦後最悪と言われた日韓関係が改善する」と肯定的に評価した。2国関係を「最悪」な状態に陥れたのは韓国の被害者でもなければ文在寅前政権でもない。植民地時代さながらに韓国の三権分立に介入し、経済報復措置に出た日本政府であり、連日韓国バッシングを展開し嫌韓感情をあおった日本メディアではなかったか。その「改善」を全部韓国の責任にし、尹大統領のお手並拝見といった態度が日本側にまん延していたこと自体が植民地主義そのものだ。

 韓国の世論調査では6割が反対している。韓国の1500以上の市民団体と野党はこの「解決策」を「第二の韓国併合(国恥日)」と呼び11日にはソウル市庁前で大集会を開いた。ソウル大学の教授グループは14日、韓国政府に「解決策」の撤回を求めた。全国の大学生が批判声明を出している。何よりも判決が確定している原告のうち生存している3人は全員が「解決策」拒否を表明している。日本のメディアで言われている「一部の原告が反対している」という言説はミスリードだ。

 三菱重工強制動員被害者で94歳の梁錦徳さんは6日の抗議集会で「悔しくて今は死んでも死にきれない。飢え死にすることがあっても、このようなやり方では受け取らない」と訴えた。被害者が望まない「第三者弁済」は法的に不可能という法曹界の声もある。そもそも高齢の被害者がこのように声を上げ続けなければいけない状況を作っているのは、植民地支配の償いをしようとしない日本の責任である。

 尹大統領が訪日した16日、石垣島では住民の反対と不安の中、陸自ミサイル基地が開設された。米韓日政府は「抑止」という名の軍事的挑発をやめるべきだ。歴史を直視し人と命を中心に考える政策こそが和解と平和を生み出すものではないのか。

 (「アジア太平洋ジャーナル・ジャパンフォーカス」エディター)