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中国 軍拡と平和路線推進 台湾有事の可能性 米台は冷静な見方も<自衛隊 南西シフトを問う>24 


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
辛亥革命110周年記念大会の演説で台湾統一実現への決意を表明した中国の習近平国家主席=2021年10月9日、北京

「台湾有事」は差し迫った脅威か、それとも虚構か―。政府は台湾有事への備えを根拠に、防衛費増大や南西地域での防衛体制強化を正当化している。日本国民の間でも危機感が高まっているが、最新の中国の動向などからは違った側面も見えてくる。

異例の3期目に入っている中国の習近平国家主席は、2022年10月の共産党大会で台湾統一に向けて「武力行使の放棄を約束しない」と発言した。「悲願」の統一に向けてあらゆる選択肢を排除しないとの立場だ。

実際に中国は軍事力を倍増させ、訓練を活発化させてきた。防衛省によると、中国の国防費は公表ベースで22年までの過去10年間で約2・2倍となった。23年も前年比7・2%増の国防費を計上し軍拡路線を続ける。

一方で中国の台湾に対する基本的な姿勢は、武力ではなく、平和による統一だ。中国と台湾の関係を研究する法政大の福田円教授によると、22年末以降は習政権の発言や発信にも変化が見られる。習政権は3月の全国人民代表大会(全人代)でも武力に関する発言を抑え、平和路線を強調した。

福田教授は習政権の変化の理由として、3期目入りした習氏自身に余裕が出たことに加え、コロナ収束が近づいて中台間で往来しやすくなったことや台湾の地方選で与党が負けるなど政治情勢の変化を挙げた。「武力を見せつける行動や発言をすれば、ますます台湾の人々の心が離れることは習政権もよく分かっている」と分析した。

中国は、短期的には軍事力を政治的な駆け引きや威圧の手段として使っていると考えられる。背景には中台関係のみならず、米国との覇権争いがある。中国が22年8月に波照間島や与那国島周辺に演習で弾道ミサイルを落下させたのも、米国の動向に対するけん制の意味があった。

21年3月に当時のデービッドソン米インド太平洋軍司令官が「6年以内」に台湾侵攻の可能性があるとの認識を示した一方で、バイデン大統領やオースティン米国防長官は台湾有事が差し迫った脅威だとの見方を否定している。

有事に関する台湾での認識について、福田教授は「将来的な武力侵攻の可能性が高まっているという認識はあるものの、現時点で中国がすぐに行動を起こす可能性は高くないと考えられている」と解説し「(台湾の人々は)今後の努力次第で武力侵攻を抑止できるとも捉えている」と語った。

台湾有事の可能性は無根拠につくられた幻想とは言いがたいが、目前に迫って回避が不可能な脅威でもない。適切な認識が安全保障議論の始点となる。 (明真南斗)

連載「自衛隊南西シフトを問う」

2010年の防衛大綱で方向性が示された自衛隊の「南西シフト(重視)」政策の下、防衛省は奄美、沖縄への部隊新編、移駐を加速度的に進めてきた。与那国、宮古島に続き、今年は石垣駐屯地が開設される。22年末には戦後日本の安全保障政策の大転換となる安保関連3文書が閣議決定され、南西諸島の一層の軍備強化が打ち出された。南西シフトの全容と狙い、住民生活への影響など防衛力強化の実像に迫る。

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