おとさた/真名井大介 選外佳作・キズ/おおたにあかり おかげさま/アールモーリ・ことぶき子 今朝再び/高柴三聞<琉球詩壇・4月8日>


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 瀬底 正志郎

おとさた 

真名井大介(南城市)


 

あなたのもとを旅立った風が
今朝 わたしの胸に とどきました

かがやく海の 潮のにおい
山々の ぴりりとした沈黙
街のかかえる さびしさも

この星のたくさんのうたを ひきつれて
窓からそっと 入ってきたのです

もの言わぬひびきの なつかしさに
固めていた胸が ほどかれて

そこに新たな 風が生まれました

再会をよろこぶ風たちが
カーテンを大きくふくらますのを
見送りながら

わたしは孤独と ひとつでした


西原裕美・選

寸評

風が運んできたものが優しく寂しく表現されている。伝えたい事が短い詩に盛り込まれている。


 

選外佳作1

キズ 

おおたにあかり(高知県)

 

ひとさしゆびのキズに
気付く
わざわざ
だれかに説明しないことも
されないことも増えていく

唇に押し当てて
口火を切るって
斬るなのか着るなのか
正しい使い方を
教えて欲しい

夜を纏いたい
居場所が居なくって
何処にも誰にも頼れないから

全てが此処からでなく
全ては個々から始まって
ひとさしゆびに居着いたキズ
探してみる
さっきまでいたハズなのに
紙屑だったのか

ホロリ落ちてもういない
火をつけれたらいいのに
せめて煙草を吸うのなら
燃やしてしまえたかもしれない

今日のわたし
やっぱりどこにも
置き場所すらなくて
ひとりのよるに
ひとりだねとうなづいてくれる人
ひとり探せないままで

人差し指のキズすら行方不明


 

選外佳作2

おかげさま

アールモーリ・ことぶき子(沖縄市)

 

木枯らしが過ぎて
パッションフルーツの枯れ葉が
三枚  五枚  七枚
下りある
隣の隣の垣根から
門扉も抜けてここに
とすれば
我が庭のクロトンやビワの葉も
どこかの屋敷におじゃまして
その主に
「しょうがないなぁ」と呟かれ
きまり悪そうにしているだろう

時折吹く風に
後ずさりする落ち葉
「そうか、そうか」と
放つ言葉に
己の今の確かさを知る


 

選外佳作3

今朝再び

高柴三聞

 

ふるふると魂は震え出して空はゆっくり
白みだし朝の目覚めがやって来る

卵に納豆とご飯に焼き鮭と黄色い沢庵
湯気がもわもわナメコの味噌汁

鶏の声が高らかに冷たい空に木霊して
自動車が渋々往来をはじめ出す

憂鬱で生き難い緩やかな地獄を
今日もゆらゆらゆらり

十億光年の虚空を彷徨い揺蕩う
揺蕩う魂即ち電子の振動は無限に続く

嘘と本当と寒さが身に染みて
社会は欠伸しながらいつものルーチンワーク

街はもごりもごりと人間達を呑みこんでは
吐き出して機械音が投げやり気味に歌い出す

昨日死んだ希望は
今朝再び絶望の轍をなぞりながら
それでも力強く其々(それぞれ)の一歩を踏み出す