中国と台湾の現状や沖縄との関わりについて、中台関係を研究する福田円法政大教授に聞いた。
◇ ◇ ◇
―中国は台湾に対してどのような姿勢を取っているのか。
「台湾については平和統一を基調とする一方、軍事的な手段も放棄していない。特に習近平政権は、前政権と比べて武力行使の可能性を強調する傾向にある。ただ、3期目入りして2022年末以降は台湾への姿勢を軟化させ、交流を呼び掛けている」
―22年8月のミサイル演習など強い態度を見せたのは国内向けの誇示か。
「米台への対応という側面もあるが、国内の政治日程も関わっている。重要な人事も掛かる党大会直前にペロシ米下院議長が訪台したので、強い対応を取るしかなかったのだろう。実際は、武力を見せつける行動で台湾の人々の心が離れることは分かっている」
―中国は台湾統一のために軍事侵攻するか。
「短期的には軍事力は政治的なシグナル(信号)として使われている。長期的には軍事的な行動可能範囲を確かめたり、影響力が及ぶ地域を広げようとしたりする狙いもある。さらに将来は、侵攻しようと思えばできる程度に軍事力を高めようとしている」
「台湾では、将来的な武力侵攻の可能性が高まっている認識はあるものの、現時点ですぐに中国が行動を起こす可能性は高くないと考えられている。努力次第で抑止できると捉えられている」
―日本では有事の可能性が過剰に捉えられていないか。
「これまで、台湾海峡で軍事紛争が起こる可能性や日本の安全保障との関わりについて議論してこなかった反動ではないか。しっかりと議論することが重要だ」
―中台関係と沖縄の関わりをどう考えるか。
「情報工作は、すでにある対立をさらに深刻化させる形で実行される。沖縄で基地問題を巡る政府との対立に中国が働きかけようとする可能性はある。ただ、台湾での工作とは異なり、言語が異なる沖縄での工作は中国にとってハードルが高いだろう」
「沖縄で『ミサイル基地ができたら狙われるのではないか』という懸念は当然の思いで、民主主義の観点からも許容されるべきだ。自然に出てくる世論や情報まで中国の関与を疑って規制しようとするのは危険で、判断が難しい問題だ」
―政府に求められる対応は何か。
「台湾有事の可能性があるから南西方面の軍備増強は当たり前だという風潮があるが、もともとある基地問題などにも配慮する必要がある。政府は増強の面だけでなく、住民保護や退避計画などについてもパッケージで示すといい」
(聞き手 明真南斗)
連載「自衛隊南西シフトを問う」
2010年の防衛大綱で方向性が示された自衛隊の「南西シフト(重視)」政策の下、防衛省は奄美、沖縄への部隊新編、移駐を加速度的に進めてきた。与那国、宮古島に続き、今年は石垣駐屯地が開設される。22年末には戦後日本の安全保障政策の大転換となる安保関連3文書が閣議決定され、南西諸島の一層の軍備強化が打ち出された。南西シフトの全容と狙い、住民生活への影響など防衛力強化の実像に迫る。