不登校が過去最多を更新する中で、その長期化も問題となっている。この春中学2年生になる沖縄市の男子生徒(13)は昨年の入学直後から、暴力やSNSでの誹謗(ひぼう)中傷により不登校となった。保護者の学校側への不信感から話し合いが難航して関係がこじれ、サポートを得られないまま10カ月以上、不登校が続く。全国のいじめ問題を中立的第三者の立場で解決してきたNPO法人プロテクトチルドレン(埼玉県)の森田志歩代表は、保護者と学校の関係悪化を全国的な不登校長期化の要因に挙げ、解決のためには「第三者の介入が必要だ」と指摘する。 (石井恵理菜)
中学入学後、男子生徒が「目立った存在」であることを理由に、同級生で作るLINE(ライン)のグループチャットで男子生徒に対する誹謗中傷があった。「埋める」「死んでも知らん」といった言葉が並んだ。同級生が100人近くいる別のグループチャットでも、誹謗中傷があった。話し合いのため、男子生徒は誹謗中傷する生徒の自宅に行った際、背後からプラスチックのバットで殴られ、羽交い締めにされた。
学校側は昨年6月、加害生徒や保護者を集めて話し合いの場を持ったが、解決には至っていない。男子生徒の父親は、話し合いの場を持つ際、事前に加害生徒らの保護者を呼ばないよう学校側に求めていた。しかし学校側は「未成年のため」との理由で保護者を同席させ、それが父親の学校への不信感につながったとされる。
学校と市教育委員会はいじめと認定した一方で、不登校といじめの因果関係は「まだ聞き取りができていない」として認めていない。
プロテクトチルドレンが全国の教育委員会(100機関)と学校(150校)に対して2021年に実施したアンケートによると、いじめ問題で対応が遅れるケースの原因として教育委員会職員と教職員の回答で最も多かったのが「保護者との話し合いが難航し関係がこじれてしまうため」(36・8%)だった。
森田代表は「中立的第三者を介入させることで、解決に導くべきだ。大人同士の争いになってはいけない」と指摘する。いじめ問題で児童生徒の保護者との関係が硬直した場合、中立の立場で介入し、解決・改善に向けて協力する第三者機関が必要と考える教育委員会職員と教職員の割合は、87・4%に上った。
森田代表は「保護者がたとえ学校側に不信感を抱いても、子どもを巻き込まず、学校と教育委員会と一緒になって子どものサポートをしてほしい」と強調した。
関係硬直、話し合いできず
1学期と2学期終了後に男子生徒の自宅に届いた通知票の成績はどれも「オール1」だった。欠席理由の欄には「家庭事情」とあり、いじめへの言及はなかった。「自分は被害を受けた側なのに、なんでこんな扱いを受けるのだろう」。男子生徒は声を落とす。学校側は「家庭事情」と記した理由について、本紙の取材に対し「回答できない」とした。市教委は「いじめが原因かどうかもまだ聞き取りができていない」との見解を示した。
男子生徒の父親(37)は「息子の休んだ期間の代償は大きい。学校と教育委員会には改善策を見つけ責任を取ってほしい」と語る。一方で、学校と保護者の関係が硬直することで、不登校の解決に向けた話し合いの場をつくれない現状もある。
学校側は「(解決に向けた)対応はしている。ただ保護者とお話ができない状況だ。学校がアクションを起こそうとすると関係がこじれてしまう」と吐露する。
昨年6月にあった保護者会の後から父親とは関係修復ができておらず、話し合いを提案しても断られる状況にあるとした。
不登校の間、男子生徒はスクールカウンセラーとの面談もなく、フリースクールに通うこともない。男子生徒の父親は「息子に学校以外の居場所を」と、フリースクールなど学習の場を探したが、紹介されたのはどれも学校と提携があるもので、学校への不信感から断った。
プロテクトチルドレンの森田代表は「学校ともめている中で保護者が拒否する理由は分かる。スクールロイヤーも学校に雇われているため、安心して相談できない保護者も多い」と現状を話す。
子どもを思う気持ちは同じはずの保護者と学校の溝が深まり、解決に進まないまま月日が過ぎる現状。男子生徒は「元通りの生活を」と登校への思いも語るが、不安も大きい。「学校では自分が悪いかのようにうわさが流れている。行ける日が来たら、前みたいに友達と遊びたい」。一日も早い解決を望んでいる。