3月31日にロシアの今後の外交戦略を定めた「ロシア連邦外交概念」の改訂版(前回の外交概念は2016年に策定)にプーチン大統領が署名した。この文書は全76項目からなる、かなり長いものだ。
ウクライナ戦争後の国際関係の変動を踏まえて、米国を中心とする西側連合との関係の見直しが、改訂の主眼だ。米国およびその他のアングロサクソン諸国に対する外交方針についてこう記す。
<62 米国に対するロシアの路線については、世界発展の最も影響力のある主権的中心地の一つであり、同時に西側連合の攻撃的反ロシア政策の主要な扇動者、組織者、実施者、ロシア連邦の安全、国際平和、人類のバランスのとれた公正で進歩的な発展に対する大きなリスクの源であるこの国家の役割を考慮すると、複合的性格を有する。
63 米国の核保有大国としての地位、戦略的安定と国際安全保障全般の状態に対する特別な責任を考慮し、ロシアは米国との戦略的対等性の維持、平和的共存、ロシアと米国間の利害関係の均衡を確立することに利益を見いだす。このようなロ米関係モデルを形成する展望は、米国が力による支配政策を放棄し、反ロシア路線を修正し、主権平等、相互利益、互いの利益の尊重という原則に基づくロシアとの交流を支持する準備がどの程度できているかによって決まる。
64 ロシア連邦は、他のアングロサクソン諸国がロシアに対する非友好的な政策を放棄し、その正当な利益を尊重する意欲の程度に応じて、関係を構築する意向である。>(3月31日、ロシア大統領府HP、ロシア語より筆者訳)
去年秋ごろから、モスクワのロシア政府系政治学者や駐日ロシア大使から、「現在、プーチン大統領の主導でロシア外交概念の改訂が進められている」という話を聞いていた。モスクワの政治学者は「非友好国に加え、敵国という概念が設けられる可能性がある。日本が敵国に指定されないようにロビー活動をした方がいい」と勧められ、ロシア大使からは「新しい外交概念では、日本に対するロシアの位置付けは、残念ながら、かなり厳しいものになります」と予告された。
今回の改訂版外交概念に「敵国」という範ちゅうは設けられていない。対日外交方針について明確な規定はなされていない。改訂版外交概念では、ロシアの非友好国について米国以外は名称を挙げず、プレーヤーとして認めないという姿勢が露骨に現れている。
日本との関係は、第64項で規定された米国以外のアングロサクソン諸国(英国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ)との関係と同様と筆者はみている。「日本がロシアに対する非友好的な政策を放棄し、その正当な利益を尊重する意欲の程度に応じて、ロシアは関係を深化させる」という方針をとるということだ。
(作家・元外務省主任分析官)