沖縄県の石垣島に3月16日、陸上自衛隊の新たな駐屯地が開設された。南西諸島の与那国島、宮古島、奄美大島に続く新設。那覇市出身の報道写真家石川文洋さん(85)が、石垣島と与那国島を訪れ、政府が敵基地攻撃能力の保有を決定した中、自衛隊の配備で揺れる離島の姿を撮影し、ルポを寄稿した。
石垣島の空港から「いしがき女性9条の会」事務局長の藤井幸子さんの車で、陸上自衛隊駐屯地のある平得大俣地区へ向かった。途中の開南十字路に「開南は命はぐくむ水のふるさと」という駐屯地建設反対の大きな看板が立っていた。
石垣島の中央部には沖縄県で一番高い於茂登岳がある。周辺にも山々があり、森林は飲料水や川の水源になっている。駐屯地は、その豊かな森林を切り開いて建設。沖縄の人々は美しい海や自然を誇りに思っているので「駐屯地建設で自然を壊すな」という声も多い。
石垣市の中山義隆市長は2015年、防衛省から陸自部隊の配備を要請され、16年に受け入れを表明した。住民は「自衛隊配備の賛否を住民投票で決めるべきだ」と、有権者の4割に当たる約1万5千筆の署名を提出したが、市長は市議会の受け入れ可決と住民投票否決を理由に、住民投票を実施しなかった。
石垣島の住民が、自衛隊配備に反対する背景には、沖縄戦の時、旧日本軍の駐屯で住民が犠牲になったことがある。
石垣島に独立混成第45旅団の司令部を置いた旧日本軍は、住民を蚊の多い山間部に強制移住させた。そのため、住民はマラリアに次々と感染し、八重山諸島の人口3万1671人のうち3647人が死亡したという。
「いしがき女性9条の会」のメンバーが、市街地に近い交差点で、自衛隊配備に反対する抗議行動を行った。横幕には「石垣島を戦場にするな」「敵基地攻撃能力の保有は憲法違反」などと書かれていた。会長の江川三津恵さんらは交代でメガホンを持ち、通行する人たちに訴えた。「国を守るということは戦争をしないということです」「敵基地攻撃能力を持つことが平和に結びつくかよく考えてください」「各地に長距離ミサイル配備を計画し既成事実を積み上げようとしています」
与那国島は沖縄本島から510キロ。台湾までは110キロと近い。島の周囲は約28キロ。島南部のインビ岳にある沿岸監視隊の巨大レーダー5本が島の各所から見えた。
与那国島では15年2月、自衛隊配備の賛否を問う住民投票が行われ、賛成多数で自衛隊招致が決まった。
賛成の理由は、人口減少や住民の高齢化、町財政の悪化の中、自衛隊配備が島の活性化や抑止力になるとの期待だった。
自衛隊配備に伴う交付金で、ごみ処理場ができた。現在の人口約1650人のうち、自衛隊員と家族が計約250人いる。自衛隊の家族が、町の式典などに参加することを喜ぶ人もいる。
配備反対の中心だった70代の男性も「自衛隊や家族が定着すると反対の声を大きくする雰囲気ではなくなった」と話した。
与那国島では、自衛隊の駐屯地反対の看板やビラは見られなかった。
(文と写真・石川文洋)