prime

高級コテージやアウトドアが人気 沖縄を訪れる外国人観光客の最新トレンド コロナ禍を経て見えた変化【WEBプレミアム】


この記事を書いた人 Avatar photo 呉俐君

 昨年10月に沖縄と海外の都市を結ぶ直行便が本格的に再開されてから半年。今や、街中で再び外国人観光客の姿をよく目にするようになった。コロナ禍を経て、沖縄を訪れる外国人客の旅行ニーズも変化している。感染リスクを避け、少人数で宿泊できる高級コテージや野外での活動などが一段と注目を集めている。団体旅行より個人旅行のほうが人気という傾向も見られるようになった。沖縄を訪れる外国人観光客が求めているものとは。最新トレンドを追った。
 

(呉俐君)

■価格は1.5倍 それでも来る

 「コロナの影響で(外国人客は)知らない人と一緒に団体活動をしたくなくなった」-。県内に支店を置くある海外航空会社の支店長はその変化を語る。

 同支店長によると、2月時点の沖縄と海外を結ぶ航空路線の全体の座席供給量はコロナ前と比べ、「約2割」にとどまる。さらに航空運賃もコロナ前と比べ、値上がりしている。台湾発沖縄行きの片道運賃はコロナ前と比べ約1.5倍に上がり、「現時点で沖縄に来られる台湾人観光客はお金にだいぶ余裕がある人に限る」という。

 だが、航空運賃が値上がりしても、沖縄への観光需要は減っていない。取材に応じた同航空会社は現在、沖縄に1日1往復のみを運航しているが、1月時点の平均搭乗率は7割を超えた。支店長は「沖縄観光は着実に注目されている。今後、那覇空港のスタッフ不足などの問題が解決できれば、さらに増便したい」と需要を取りこぼさないよう、意欲を見せた。

 

観光客でにぎわう那覇市国際通り(資料写真)

■増える問い合わせ

 今年の春節(旧正月)に、香港から沖縄を訪れた親子3人は、自転車で本島南部を一周した。自転車ガイドの森健一郎さん(36)は、3人を南城市のニライカナイ橋や奥武島などへ案内した。

 森さんによると、コロナ後、県内でのサイクリング需要がじわじわと増えている。昨年末から、台湾や韓国などの外国人客から県内でのサイクリングについての問い合わせが相次いでいるという。森さんは「早く沖縄でサイクリングしたい外国人客が少なくない。沖縄で走りやすい季節は10〜11月なので、今年の10月ごろから外国人客が本格的に戻るだろう」と期待を示した。

今年の春節期間、本島南部を一周した香港からの観光客ら=1月26日、糸満市(提供)

 なぜ沖縄でのサイクリングが注目されているのか。

 沖縄観光コンベンションビューロー海外プロモーション課の山城圭之慎さんによると「コロナ後、沖縄を訪れる外国人客らはコロナを意識して行動する傾向がある」とし「混雑している場所を避けたいため、サイクリングやシュノーケリングなどがより一層人気となった」と説明した。

 加えて「円安が追い風となり、少人数で泊まれるコテージも人気だ。宿泊代金が1泊1人5万円の高級コテージなどで過ごす海外客もいる」と話し、訪沖外国人観光客が求める「旅」の変化を明らかにした。
 

外国人客をサイクリングツアーに案内している森健一郎さん=2月9日、那覇市

■人口減の集落から生み出す価値

 那覇から車を走らせること約2時間、国頭村謝敷(じゃしき)という地域がある。国頭村の中で最も人口が少ない(3月時点)同集落内に昨年8月、空き古民家を再生した高級1棟貸しの宿「やんばるホテル南溟森室(なんめいしんしつ)」が誕生した。

 同宿泊施設は、やんばるの自然や伝統文化の魅力をより知ってもらうため、宿泊客に集落案内を実施するほか、帆かけサバニ体験やユタ文化体験など、地域と観光客をつなげるプライベートアクティビティも提供する。

 同宿を運営するまちづくり会社の「Endemic Garden H(エンデミックガーデンエイチ)」の仲本いつ美社長(35)は、地域の課題解決に「観光」を取り入れた。「あえて人口が少ない集落で宿と地域限定のコンテンツツアーを提供することで、地域が抱える空き家や空き地の問題解決などにつながる。集落も次世代へ伝承しやすくなる」と狙いを語る。

時々宿泊客に集落を案内するエンデミックガーデンエイチの仲本いつ美社長=3月7日、国頭村謝敷

 国頭村役場や旅行業などを経験してきた仲本さん自身も国頭村出身だ。仲本さんは「役場で地域の課題 解決に取り組んできたが、特に『観光』で地域の課題を解決したいとの思いが強くなり、やんばる地域限定の旅行社を立ち上げた」と語る。その上で「集落がなくなると寂しい。集落に軸足を置いたビジネスの展開で地域の人たちとも深いつながりができる」と話す。そして仲本さんも熱視線を注いでいるのが海外からの来県者だ。

 海外客に着目したのは、近年、欧米豪だけでなく、アジアからの訪日旅行希望者も「サステナブル(持続可能)」な取り組みに関心が高い層が多いことがある。

 沖縄振興開発金融公庫が3月に発表した「訪日外国人旅行者のサステナブルツーリズムへの意向と沖縄観光」によると、沖縄を訪問したいと考えている外国人旅行者の6割以上が、地産地消などのサステナブルな取り組みによる宿泊単価の値上げを「よいと思う」と回答した。つまり、消費型の観光から環境・文化の保全にシフトすることが、世界的に選ばれる観光地となる潮流を示したている。同施設も今後、こうした潮流に乗って海外市場に売り込んでいく予定だ。

空き古民家を再生した国頭村謝敷にある南溟森室の宿泊施設(提供)

 今年9月には北海道で「アドベンチャートラベル・ワールドサミット」(同実行委員会)が開催される予定。南溟森室は金武町や今帰仁村の観光協会と共同で大会前の現地視察ツアー「ファムツアー」先として応募し選ばれた。ファムツアーでは、欧米人を中心とした関係事業者らが宿泊に来る。

 仲本さんは「ここでしか体験できないコンテンツを提供する。これによってインバウンド(訪日客)が来るようになったら、今後日本人も着いてくるだろう」と話し、沖縄の「YANBARU」を一層、世界へプロモーションをかけていく決意を見せた。

 コロナ禍を経て沖縄を訪れる外国人観光客のニーズも変化を見せている。「爆買」にとどまらず、質の高い沖縄観光を望む人も増えている。滞在中の消費単価を上げるため、いかに沖縄観光の質をあげ、付加価値の高いコンテンツを提供するか、今後の動きが注目される。

【関連記事】無人島以外も…中国マネーと沖縄の不動産 虫食い状態で「開発困難」?