日本の安全保障政策の問題点や「台湾有事」の沖縄への影響、緊張緩和に向けた方策について、国際政治学者の我部政明氏(沖縄対外問題研究会代表)に聞いた。
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―安全保障関連3文書の改定をどう評価するか。
「日本防衛に軸足を置いてきた従来の防衛大綱から位置付けが大きく変わった。日本が米国の軍事的プレゼンスを補強するばかりでなく、アジアにおける軍事戦略の一翼を担うことになる。沖縄は中国や台湾に近く、米軍兵力が集中している。だからこそ、戦争となれば攻撃対象となり、その安全性は著しく弱まる」
―日本の安保政策の問題は。
「米軍と自衛隊の一体化が進む中、日本自身が自衛隊をどう動かせるのか、領域外への展開まで判断できるのだろうか。日本は指揮権を米軍に移すまでは至っていないが、安保3文書に基づき日米は共に動けるように訓練をする。諜報能力を米側に依存し、保持することになる敵基地攻撃(反撃)能力を使おうにも米国の指示が不可欠。米国なしで攻撃対象の特定すらできない状況だ」
「日本の防衛力強化が中国に攻撃を思いとどまらせる関係性にあるのか疑問だ。中国は、米国が参戦しなければ日本も参戦しないとみている。中国からすれば、米国さえ注意していればいい」
―台湾海峡を巡る緊張はいつまで続くか。
「米国では、中国は人口減もあり10年後には国力が下降していくとの見方がある。その間だけ中国を押さえ込めれば脅威は減る、という理屈だ。だが、ロシア・ウクライナ戦争で米国やヨーロッパ諸国のようにウクライナ支持ではなく、どちらにもくみしない国がグローバルサウス(新興・途上国)の多数だ。中国はロシアに接近している。米中対立を世界の視点から眺めてみると、どちらにも関わるバランスをとる国が増えるだろう。緊張はより長期に渡って続くだろう」
―東アジアの安定に向けた道筋をどう描くか。
「外交が重要だが、『一つの中国』原則は中国の政治目標として明確であり、それに異を唱えても水掛け論にしかならない。だからこそ、緊張を高める手段、特に軍事面の制限に向けた交渉が不可欠だ。軍備管理は冷戦時から用いられてきた。行動の自由は残しつつ、手段について合意できるところを探る」
「中国と米国に対し、台湾海峡の緊張を高めてはならないと沖縄から発信すべきだ。中国に反発する保守系の人ならば、中国の軍事増強で緊張が増し沖縄の安全が脅かされていると言えばいい。米国を批判的にみる人たちは、在沖米軍を減らして緊張を緩和すべきだと言える。保守系の人が米国に言うこと、米国に批判的な人が中国に言うことはさらに重要だ。沖縄内で政治的立場は違うが、沖縄で戦争が行われてはいけない点で共通する。この思いこそが沖縄を救う唯一の道だろう」
(聞き手 知念征尚)
(おわり)
連載「自衛隊南西シフトを問う」
2010年の防衛大綱で方向性が示された自衛隊の「南西シフト(重視)」政策の下、防衛省は奄美、沖縄への部隊新編、移駐を加速度的に進めてきた。与那国、宮古島に続き、今年は石垣駐屯地が開設される。22年末には戦後日本の安全保障政策の大転換となる安保関連3文書が閣議決定され、南西諸島の一層の軍備強化が打ち出された。南西シフトの全容と狙い、住民生活への影響など防衛力強化の実像に迫る。