経済的に厳しい家庭や不登校、ヤングケアラーなどさまざまな問題を抱えつつも、行政による既存の支援事業が届きにくい児童生徒を対象に、「狭くて深い支援」が行われている。事業者は嘉手納町で児童福祉事業などを行う「グットトライ」(前泊重也社長)。名城健二沖縄大教授がアドバイザーを務める。子どもに特化した支援が親や家庭の問題改善につながっており、社会と向き合う子どもの自尊感情の向上につながっている。
同社は県の「ヤングケアラー等寄り添い支援事業」を受託し、2022年9月から事業を実施。嘉手納町などと連携し、7人の児童生徒と向き合った。基本活動は週1回の「食べる」と「遊ぶ」。季節の行事を楽しみ、観光地や教育施設などを巡る。
単純に見える内容にも意味がある。つまずいたり、傷ついたりして年相応の経験を積み重ねられなかった子どもにとっては、集団で学びや遊びをやり直す機会になり、居場所と仲間への安心感につながっていくという。
現場では、児童発達支援管理者などの専門資格を持つ端迫直さんなどが個別計画を作成しつつ、必要であれば自宅に出向き、SNSでも話を聞く。学校には行けないが活動に参加できる子は、教諭と調整して登校実績にしてもらった。
家庭も変わる
職員の兼島健さんは「親の理解を得て、物であふれていた子どもの部屋を大掃除しました」と語る。帰宅後、楽しそうに活動内容を話す子どもの姿に、親も事業に賛同してくれたという。家庭への支援が届きにくい背景にあった「親の行政嫌い」が変化した一例だ。
名城教授によると、暮らしが安定している人々の常識や助言は、さまざまな困難を抱える家庭にとっては押しつけになり、反発を生むこともある。
手応えを得た端迫さんは「子どもに特化した支援により、さまざまな負の連鎖を断ち切る一歩にしたい」と語る。
ありのままで
3月下旬の午後。事務所付近の公園で、事業に参加してきた生徒ら4人が職員と“だべって”いた。「なんてことない話をするのが楽しいんだよね」。日が傾いていく涼しさの中で仲間との雑談が盛り上がる。その中には、通信制高校への進学に向けて準備を整えるなど、将来を見つめ直して社会との接点を探り始める子もいる。
子どもたちの変化と成長をもうしばらく見守っていくため、同社は22年度で県の受託を終了し、自費で支援を続ける決断をした。
活動は、子どもたちの精神保健に心を砕いてきた名城教授が温めてきた支援方法でもある。活動では東京都が採用する「自尊感情測定尺度シート」を用いて客観的にデータを積み上げており、「協力してくれる方がいれば広げていきたい」と考えている。
(嘉陽拓也)