コロナ禍の行動制限や自粛が緩み、マスク着用も個人の判断に委ねられるなど人流が活発化し、県内の消費が上向いている。観光客も増え、日本銀行那覇支店の調査によると、全国に先駆けて景気回復が進む傾向にある。ただそれに比例して販売やサービスなど各業種で人手不足感が強まり、中小企業からは「人が回らず機会の損失になっている」などの声が漏れる。各景況調査で軒並み改善の見通しが示されるが、労働力不足が喫緊の課題として深刻度を増している。
日銀那覇支店の3月期県内企業短期経済観測調査(短観)によると、過剰から不足を差し引いた雇用人員判断指数はマイナス52で不足感が強まり、先行きではさらに2ポイント不足超に振れる見通しとなった。県中小企業団体中央会や県中小企業家同友会、沖縄振興開発金融公庫の調査でも軒並み、人手不足の数値がコロナ前の高い水準近くまで上昇する結果となった。
沖縄労働局が取りまとめる「有効求人倍率」の推移によると、新型コロナウイルス感染症が流行する前は、全国同様に急上昇していたが、コロナの影響を受けて20年度に平均0.79倍まで落ち込んだ。その後は緩やかに回復し22年4月に0.92倍まで改善。行動制限が緩和される中、8月には1倍を超えて求人が求職を上回り、23年1月には1.13倍まで上昇した。
コロナ前は、海外からの観光需要を取り込むなど全国で倍率が増加。18年度に平均で全国1.62倍、沖縄も1.33倍まで高まっていた。渡航や行動の制限などコロナの影響で企業の求人力は一時低下したが、需要が回復する期待感で揺り戻しの動きが見られ、労働市場はコロナ前に戻りつつある。
22年12月の雇用情勢は、コロナ流行前の19年同月比で、有効求人数はほぼ同数に対し、有効求職者数は3699人多くなった。しかし現場の人手不足感は強い。その要因に沖縄労働局の担当者は「滞留が起きている」と分析。背景にコロナ禍の経験や物価高に伴う給与水準の見直しがあるとみる。国内ではコロナ流行期、従業員を休ませた企業に、休業手当の一部を補塡(ほてん)する雇用調整助成金の特例制度が実施されたが、サービス業を中心に働き手は先行きに不安を感じる結果になった。関係者などによると、年配者の離職も進んだという。
経験豊富な従業員が職場に戻らないという現象がある一方、企業側では処遇や待遇の引き上げの動きも出ている。沖縄労働局の担当者は「就職者が申し込みしつつ待機している様子がみられる」と分析した。
厳しい求人状況に、企業側も徐々に変化している。求人おきなわによると、正社員の週休3日制度や短時間勤務で条件を厚くしたり、給与を引き上げたりする会社で取り込みに成功する事例が報告されている。
ハローワークが受理する求人の平均賃金はコロナ流行前の19年12月でフルタイム19万8千円、パートタイムで850円だった。この年は半年前の7月からの比較でほぼ同水準だったが、22年12月平均賃金は、同年7月に比べ、フルタイムで2.7%増の21万1409円、パートタイムで4.1%増の1071円と高い伸び率で推移し、賃上げが進む現状が浮き彫りになった。
県内の21年の基本給などの所定内給与額(月平均)は25万800円。全国は沖縄の1.2倍高い30万7400円で、賃金は依然として開きがある。沖縄が本格的な景気回復に向かうには個人消費を下支えする雇用条件の改善や県外への過度な人材流出を防ぐなど、抜本的な人手不足対策が求められそうだ。 (謝花史哲)