HIV対策のビジョン 検査へのアクセス確保を <じぶんごとで考えよう HIV/エイズ>4


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 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は主に性行為を介して感染し、数年の経過で身体の免疫機能を低下させ、真菌(カビ)による重症肺炎や失明に至るウイルス性網膜炎などさまざまな合併症を引き起こします。

 現在では適切に診断し治療を継続することで合併症から身を守り、これまでと変わらない日常生活を送ることが可能です。日々の治療は1日1回あるいは2回に分けて1~2錠の抗HIV薬を内服するだけです。抗HIV療法により、性行為でパートナーへのHIV感染リスクをゼロにできることも最近の研究で明らかになっています。抗HIV療法を必要とする人々にしっかりと治療が行き渡れば、その地域での新たなHIVの広がりをも抑制できます。

 感染予防法に目を向けると、従来からのコンドーム使用に加えて、曝露(ばくろ)前予防内服「PrEP(プレップ)」と呼ばれる内服薬でのHIV予防が海外では重要な位置づけとなっています。なぜなら正しいPrEPの運用でHIV感染リスクを9割減少させるとの報告があるからです。PrEPは2022年8月現在、国内では正式に認可されていませんが、その準備は着実に進んでいます。

 ここで強調したいことは、優れた抗HIV療法やPrEPが機能するには、HIV検査へのアクセスが容易であることです。沖縄県ではコロナ禍以前、保健所でHIVの無料匿名検査を実施し、年間2千件程度の検査をしてきました。しかしこの3年間、新型コロナウイルス感染症対応のため県内保健所のほとんどで検査の機会が奪われ、昨年はわずか60件程度でした。

 沖縄県はコロナ禍以前から病状が進行した形で診断されるHIV症例の件数が人口10万人あたり全国ワースト5位内という状況が続いていたので、今後さらなる状況の悪化が懸念されます。

 他都道府県では自治体がHIV関連予算を民間医療機関に委託するという形で保健所業務負担を軽減させつつ、HIV検査数を維持する取り組みが行われています。県にもこれまで提言をしてきましたが、コロナ禍において今後の検査体制を含めたHIV対策をどうしたいのか、全くビジョンが見えていません。

 HIV検査アクセス、効果的な治療、PrEPという3つの柱からなる複合的予防戦略を取り入れた台湾などの地域では「2030年までにHIVの流行を終わらせる」という目標の元に、新規のHIV感染事例が大幅に減少しています。

 住んでいる地域によってHIV検査アクセスに格差があることはあってはならないことです。今後の県の保健医療政策のリーダーシップに期待します。

(仲村秀太、琉球大学病院第一内科 医師)