仕事とアドヒアランス 自分に合った働き方を <じぶんごとで考えよう HIV/エイズ>5


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 HIV感染症の治療には、抗ウイルス薬が欠かせません。患者の負担額は保険証の提示で月約6万円(3割負担)ほどですが、公的制度の利用でさらに軽減します。

 エイズ治療中核拠点病院の琉球大学病院に通う患者さんの多くは、1回の受診で病院と薬局合わせて5千円から1万円の負担に留(とど)まっています(生活保護世帯や非課税世帯の一部はこれより低額)。内服治療が安定すると通院間隔は2~3カ月に1度となり、年間医療費は10万円もかからない計算になります。

 医療現場では、患者さんが治療方針の決定に参加し主体的に服薬する行動を「アドヒアランス」と表現します。アドヒアランスを良好に保つことは健康維持につながることはもちろん、年4回程度の外来受診であれば、経済的にもやさしいことがご理解いただけると思います。

 では仕事とアドヒアランスはどのように関係するでしょうか。アドヒアランスの影響因子のひとつに「社会的・経済的要因」があります。

 長期内服を続ける陽性者にとって、仕事の安定は経済的安定をもたらし、自分が社会的な存在である実感は自尊感情の保持、生きていく力に影響します。

 琉大病院を利用するHIV陽性者の約7割は仕事を持ち、全国規模の調査と同程度の割合を示しています。多くの陽性者は感染がわかっても離職することなく、毎日の定時内服を継続しながら日常生活を送っています。感染を機に離職せざるを得なくなった人、別の理由で転職や再就職をめざす人もいます。

 またここ数年の取り組みとしてハローワーク等との連携があります。「治療と仕事の両立支援」は慢性疾患を抱える患者さんが治療と両立させながら職業生活を送るための国の政策です。

 抗ウイルス療法を受けている患者さんたちも沖縄産業保健総合支援センター、ハローワークの専門家による出張相談会や個別支援を利用して、自身のライフスタイルに合った働き方、体調を悪化させない働き方を実現させました。

 以前、琉大病院医療チームの看護師が、患者さんに県外の支援団体が主催するHIV陽性者を積極採用している企業の就職支援セミナーについて紹介し、沖縄からオンライン参加した方が、その後就職が決まったとのうれしいニュースが飛び込んできたこともあります。

 仕事とアドヒアランスは車の両輪のようなものです。HIVとともに生きる人々が、どちらも欠くことなく、自分らしい人生を生きてほしいと願っています。私もともに歩んで行くつもりです。

(石郷岡美穂、琉球大学病院医療福祉支援センターソーシャルワーカー)