HIV患者の入院拒否相次ぐ 誰一人取り残さない社会へ <じぶんごとで考えよう HIV/エイズ>11


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出前研修の内容や申込方法等について説明するハンドブック

 医学は日々進歩しています。今やHIV感染症は慢性疾患として捉えられるようになり、HIV陽性患者の中でも糖尿病や高血圧症など、HIV感染症以外の病気にかかる人や、高齢によって介護を要する人が増えてきています。

 しかし「HIV感染者」を理由に、診療や入院を拒否される事がまだ当然のように起こっています。受け入れ先が見つからず、現在、沖縄県内の中核拠点病院(琉球大学病院)、拠点病院(県立南部医療センター・こども医療センター、県立中部病院)および指定自立支援医療機関(県立宮古病院、県立八重山病院、県立北部病院)で長期入院や通院せざるをえない状況になっています。

 県内の50歳以上の陽性者はこの10年間で8・4%から31・9%に急増しています。加齢による骨折や脳疾患等でリハビリが必要になったり、認知機能低下のため介護を要したり、終末期のケアが必要になったりする場面が今後さらに増える事が容易に予測できます。

 HIVを理由に拒否される事は、病気と向き合いながら自分らしく生きようとする患者の尊厳を傷つけると同時に、受け皿がないために入院を強いられる「社会的入院」や通院の負担という状況が発生します。また現在診療をしている医療機関では、新たに医療を必要としている方を受け入れられない要因の一つにもなっています。

 2021年、県内766の医療機関を対象に行ったアンケート調査(回答率21%)では、医療機関側が「HIVは特別な病気である。専門機関が診ればいい」「風評被害が出たら困る」という負のイメージを抱いている事などが分かりました。

 研修会や新聞報道など、さまざまな場面でお伝えしていますが、陽性者を受け入れるにあたり専門的な設備は不要で、対応も標準予防策で問題はありません。

 現在、年間20人前後のHIV/エイズの新規報告がある本県で、診療を担っている医療機関の受け皿はすでにキャパを超えている状況です。直面している課題に対し、早急に対応する必要があります。

 HIV陽性者が希望する医療や介護が受けられるようになり、県内の医療機関、介護施設等で分散した診療、介護ケアの役割が担えるように課題を共有する事で、誰ひとり取り残さない社会を実現できるのではないのでしょうか。

(新里尚美、琉球大学病院第一内科・県感染症診療ネットワークコーディネーター)