今月19~21日に広島市で開催されるG7サミット(主要7カ国首脳会議)に向けてさまざまな動きがある。筆者が懸念しているのは、自民党の一部に殺傷能力を持つ兵器をウクライナに供与すべきという主張が強まっていることだ。もっとも本件に対しては、連立与党の公明党が慎重なので、自民党の勇ましい政治家の思惑が実現する可能性は低いと筆者は見ている。
筆者は、G7広島サミットに向けた公明党の支持母体である創価学会の動きに関心を持っている。4月27日、池田大作SGI(創価学会インタナショナル)会長(創価学会名誉会長)が「危機を打開する“希望への処方箋”を」と題する提言を発表した。池田氏は2月の国連総会におけるウクライナ問題に関する決議を重視する。
<具体的な項目の一つとして、「重要インフラに対する攻撃や、住宅、学校、病院を含む民間施設への意図的な攻撃の即時停止」が盛り込まれましたが、何よりもまず、この項目を実現させることが、市民への被害拡大を防ぐために不可欠です。その上で、「戦闘の全面停止」に向けた協議の場を設けるべきであり、関係国の協力を得ながら一連の交渉を進める際には、人々の生命と未来を守り育む病院や学校で働く医師や教育者などの市民社会の代表を、オブザーバーとして加えることを提唱したい>(4月27日「聖教新聞」)。
ロシアもウクライナも相手国の電力インフラ、住宅、学校、病院などを攻撃し、非戦闘員に死傷者が発生している。人道的観点から直ちにこのような攻撃を停止させる必要がある。現時点では、ロシアもウクライナも協議に応じないであろうが、いずれかの時点で戦闘が膠着(こうちゃく)状態になる。そのときに備えて停戦に向けたメカニズムについて今から考えておく必要がある。
池田氏は、3月21日の中ロ共同声明に着目する。<3月に行われたロシアと中国の首脳会談の共同声明でも、「緊張や戦闘の長期化につながる一切の行動をやめ、危機が悪化し、さらには制御不能になることを回避する」との呼びかけがなされていました。/この認識は国連の決議とも重なる面があり、広島サミットでは、民間施設への攻撃の即時停止とともに、“希望への処方箋”として、停戦に向けた交渉の具体的な設置案を提示することを求めたいのです>(前掲、「聖教新聞」)。
池田氏は、西側諸国と中ロ両国の間でも人間の生命を尊重するという共通の価値観に基づいて平和が実現できるという希望を捨てていない。すべての人には仏性(衆生が仏になることができる原因)が備わっているという仏教の根本原理を現実の世界に実現しようとしているのだ。さらに去年11月、インドネシアのバリで行われたG20サミット(主要20カ国・地域首脳会議)首脳宣言で「今日の時代は戦争の時代であってはならない」と明記したこと踏まえ池田氏はこう強調する。<その上で、G7の首脳が被爆の実相と核時代の教訓を見つめ直す機会を通じて、「核兵器の使用又はその威嚇は許されない」との認識を政策転換につなげるために、「核兵器の先制不使用」の誓約について真摯(しんし)に討議するよう呼びかけたい>(前掲、「聖教新聞」)。
創価学会と基本的価値観を共有する公明党に池田氏の提言は無視できない影響を与える。公明党は連立与党なので政府の政策にも影響を与える。G7広島サミットが、ウクライナの停戦と核兵器の先制不使用に向けた肯定的役割を担うことを筆者は期待している。
(作家・元外務省主任分析官)