絵本がつなぐ思い 磯崎主佳(美術教師・絵本作家)<未来へいっぽにほ>


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磯崎 主佳(美術教師・絵本作家)

 これまで戦争体験者や遺族の方々と、戦争の記憶を伝えるための絵本づくりをしてきました。体験者が亡くなり、遺言のように絵本が残されることがこの数年続きました。しかし今、当時作った絵本に励まされることがあります。

 絵本『のりひで』もそのひとつです。この絵本を紙芝居にしたいと言っていた「くすぬち平和文化館」の眞榮城栄子さんも数年前に亡くなりました。栄子さんの依頼で、カラーコピーで即席の『のりひで』紙芝居を作ったことがありました。後日、本画を描き直そうとしていた矢先に、栄子さんは亡くなってしまいました。それ以来、私はこの紙芝居に手をつけていませんでしたが、紙芝居活動をしていた方々は、栄子さん亡き後もコピーで作った紙芝居を使い、語り続けていたそうなのです。

 先日その方々から、栄子さんが『のりひで』の紙芝居化について、構図や背景の絵に関するメモを残していたことを知らされて驚きました。私に伝えるためとわかる細かな内容で、栄子さんの声が聞こえるようで胸が熱くなりました。

 『のりひで』は語り部だった故安里要江さんの息子の名前です。安里さんは息子が生きた証を残したいと、この絵本を作りました。栄子さんはその思いを受け止め、本が絶版となった後も紙芝居でその思いを繋ごうとしました。そして栄子さんが亡くなった後も、紙芝居で語り継いでいこうとする方々がいます。命は絶えても、言葉と思いは絵に支えられながら生き続けている。絵本や紙芝居を手にした誰かが、次の語り手となり、伝えていく。その繋がりの一端にいることを、この季節に改めて実感しています。