広島で19~21日に行われた主要7カ国首脳会議(G7サミット)は、核戦争の危険を国際社会に訴える上で一定の成果を挙げたと思う。岸田文雄首相は19日午前、G7の各国首脳(EU代表を含む)を出迎え、各首脳と原爆死没者慰霊碑や原爆ドームを背に記念撮影し、その後、広島平和記念資料館(原爆資料館)を案内した。館内での様子を明らかにされないことについての批判があるが、米英仏の核保有国に対してホスト国の日本が配慮するのは外交上、普通の対応と思う。資料館で原爆がもたらす悲惨な状況をG7首脳に見せたことには大きな意味がある。
さらに19日夜に発表された「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」ではウクライナ戦争との絡みでロシアによる核使用の危険について警鐘を鳴らしたのみならず、<冷戦終結以後に達成された世界の核兵器数の全体的な減少は継続しなければならず、逆行させてはならない。核兵器不拡散条約(NPT)は、国際的な核不拡散体制の礎石であり、核軍縮及び原子力の平和利用を追求するための基礎として堅持されなければならない。我々は、全ての者にとっての安全が損なわれない形で、現実的で、実践的な、責任あるアプローチで達成される、核兵器のない世界という究極の目標に向けた我々のコミットメントを再確認する。日本の「ヒロシマ・アクション・プラン」は、歓迎すべき貢献である>(19日、外務省HP)と記した。核軍拡を抑止する方向での意義ある政治的宣言になったと思う。
さらにウクライナのゼレンスキー大統領が20日午後に日本に到着し、21日の会合に参加することになった。19日の「ウクライナに関するG7共同声明」には、<我々は、ロシアに対し、進行中の侵略を止め、国際的に認められたウクライナの領域全体から即時、完全かつ無条件に部隊及び軍事装備を撤退させるよう強く求める。ロシアがこの戦争を始め、この戦争を終わらせることができる。ロシアによるウクライナ侵略は、国際法、特に国連憲章の違反を構成する。我々は、力によってウクライナの領域を獲得しようとするロシアの違法な試みに対する我々の断固とした拒絶を改めて表明する。我々は、ロシアの部隊及び軍事装備の完全かつ無条件の撤退なくして公正な平和は実現されないことを強調する。これは和平を求めるあらゆる呼びかけに含まれなければならない>と記した。
この内容はウクライナの主張を全面的に受け入れることをロシアに要求しているので、停戦交渉の基礎にならない。
もっとも日本の政策に関して、今回(19日付)で新たに導入されたのは、ウクライナ公共放送局への放送機材供与、ウクライナ国家警察への反射材およびカイロの供与、対ロシア制裁については、対象となる金融機関に「ロシア銀行」を含めるなど、従来に比べて大きな変化はない。日本はロシアのサハリンから天然ガスと石油を購入している。ロシアの海産物に輸入規制をかけていない。ロシア機に対して日本の領空を開放している(日本がシベリア経由の航空路を使いたいからだ)。これらの方針は今後も継続される。
またウクライナに対して殺傷能力のある装備品(武器)は供与しない。一部のマスメディアや世論の熱気と一線を画した冷静な判断を岸田首相はしている。
(作家・元外務省主任分析官)