燃料費の下落を受け、当初6月1日から値上がりするはずだった家庭向けの電気料金が一転して下がることになった。ただ、事業者向けは沖縄県の支援などを反映させても値上げの方向は変わらず、物価高が一気に進む中、厳しい経営環境に直面するのは必至だ。県内の企業関係者からは「ダメージが大きい」「利益を上げても電気料金で持っていかれる」と先行きを不安視する声が上がる。
9月までは県の支援が拡充されたが、10月以降は先行きが不透明だ。県経済は、観光需要を取り込み消費も活発化するなどコロナ禍から回復基調にあるだけに、電気料金の値上げは零細企業にとって死活問題になりかねない。
「簡単に商品に上乗せすることはできない」。県内食品製造大手の担当者は大きくため息をつく。これまで原材料費の上昇で商品に価格転嫁してきた。全国的な流れもあり、何とか理解を得られていると感じるが、電気代の商品への転嫁は「消費者のことを考えるとすぐにできない。歯がゆい」と漏らす。
支出のうち、人件費を除く経費の大半は電気代だ。昨年提示された最初の値上げ幅で試算したところ、経費は年間約1億円増加することが分かった。「利益の半分はもっていかれるイメージだ」
今回の値上げでも従前の支援があった上で2~3割(月100~150万円)は電気代として支出が増える想定だった。支援拡充で当分は負担が緩和されるが「措置が切れる10月以降は厳しくなる」と見通す。ボイラーの圧力を変えたり、廃熱解消装置を付けたりするなど「より厳格に打てる手を打っていくしかない」と話した。
空調設備を1年中使用する県内のデータサーバー会社は、昨年、利用プランの値上げに踏み切った。電気料金の値上げで収支バランスが崩れるからだ。担当者は「省エネには取り組んでいるが限界がある。事業継続のため対応せざるを得なかった」と明かした。IT関連のオキコムも、契約するサーバーの利用代について「上がっている」と頭を抱える。
24時間稼働するコンビニエンスストアなど小売り業界への影響も大きい。沖縄ファミリーマートは当初、県内約300店のうち半分が赤字になると試算。値上げ幅の縮小や支援拡充などで一時的に緩和されるが、沖縄ファミリーマートとリウボウストアの糸数剛一会長は「ダメージは極めて大きい」と危機感を強める。
燃料費高騰の背景にはウクライナ危機などがある。糸数氏は今回の値上げを沖縄電力だけの責任とすることを疑問視しながらも「全国に比べて所得に対する値上げ幅が大きい。あらゆる業界がマイナスの影響を受けると思う。国の支援が途切れた時のインパクトは大きいだろう」と県経済への影響を不安視した。
(謝花史哲)