【識者談話】日本の反撃能力、運用に疑問 北朝鮮「衛星」発射、沖縄にJアラート 佐藤学氏(沖国大教授)


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 北朝鮮が「軍事偵察衛星」を発射した5月31日、沖縄県内では全国瞬時警報システム(Jアラート)や地域の防災無線が鳴り響いた。政府は、事前に地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を先島諸島に運び込んでいたが、発射当日の展開はなかった。識者に受け止めを聞いた。


 私は今朝、Jアラートで目が覚めた。テレビを見ると北朝鮮から「人工衛星と称する弾道ミサイルが発射」との報道一色になっていた。その後、北朝鮮は「人工衛星」の打ち上げが失敗したことを認めたものの、ものものしいサイレンが鳴り響いており、私のような普通の住民が聞くと大変な危機感が募ってくる。

 昨年末に安保関連3文書が改定され、南西諸島に「反撃能力(敵基地攻撃能力)」を有する長射程ミサイルの配備が既定路線となっている。防衛省は今回先島へ地対空誘導弾パトリオット(PAC3)部隊を展開することで住民に危機感を伝染させ、危機を常態化させることが狙いだ。

 反撃能力の保有を決めたことで日本の防衛戦略は大きく転換したが、今回の「人工衛星」が消失したとの報道を見て不安を覚えた。沖縄に飛来しなかったのは良かったが、どこから発射するのか、いつごろ打つのかも大体分かっていながらも最後まで補足できなかった。PAC3部隊もきちんと展開できたのかも怪しい。この程度で反撃能力を適切に行使できるのか疑問だ。

 防衛省は発射後、「弾道ミサイル技術を用いた人工衛星」の可能性があるとした。いずれも軍事利用には違いないが、この辺の見極め能力によっては、これから沖縄は非常に危うい事態に陥る。つまり、日本に向かう弾道ミサイルと判断して反撃能力を行使したとしても、実は人工衛星だったことが後に分かった場合は日本の先制攻撃となる。沖縄は報復攻撃を受ける可能性があり、本当に危うい橋に足を踏み出している。軍拡一辺倒で対抗する手法とは異なる道を歩んでほしい。

(政治学)