【深掘り】政府「衛星」と認識も、脅威強調し「ミサイル」表現 北朝鮮の発射物 沖縄へのPAC3展開に疑問符


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首相官邸

 北朝鮮が5月31日に打ち上げた飛翔(ひしょう)体について、政府は従来「弾道ミサイルの可能性があるもの」と表現してきたが、松野博一官房長官は1日の記者会見で、「衛星」との認識を示した。政府内には発射前から衛星であるとの認識があったが、北朝鮮をけん制するための政治的な判断から「弾道ミサイル」と脅威を強調してきた。

 政府が衛星だと認めたことで、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を先島諸島に緊急で展開させる必然性に疑問符が付く。

 北朝鮮は今回、期間や部品落下の可能性のある区域を予告。一方、弾道ミサイルの場合は無通告発射がたびたびある。ミサイルは北東方向へ発射されることが多いが今回は南方向だった。

 一般的に観測衛星は、北極と南極上空を通る軌道(極軌道)に乗せるよう、南向けに打ち上げる。実際、韓国なども同じ方向にロケットを発射している。

 収集した情報から防衛省幹部は北朝鮮の発射前から「本気で衛星を打ち上げようとしている」と分析していた。ただ、発表などでは(1)打ち上げ技術は弾道ミサイルと共通(2)衛星でも国連安全保障理事会決議違反に当たる―などを踏まえ「弾道ミサイルの可能性がある」との表現を続けていた。

 北朝鮮は1998年や2009年、12年、16年にも「衛星」打ち上げを発表。従来は衛星を打ち上げるほどの技術力が北朝鮮にないと考えられており、政府は弾道ミサイル技術を高める意図を強調して北朝鮮をけん制してきた。近年、北朝鮮の技術力が向上し、実際に衛星打ち上げを実現する可能性は高まっている。

 1日、防衛省職員を招いた自民党国会議員の会合で議員側から「いつまでも弾道ミサイルと言うのではなく、(軍事)衛星の脅威という新たな局面に近づいてきていることを国民にきちんと説明するべきだ」との意見が上がった。来日したオースティン米国防長官も記者会見で「宇宙への発射と称するもの」とし、弾道ミサイルとは表現しなかった。

 松野長官は1日の会見で、表現の変化について「さまざまな情報を総合的に分析した結果(北朝鮮が)衛星打ち上げを試み、失敗したと認識している」と説明した。
 (明真南斗)