子の「非行」、語り合い聞き合う場に「さんぽの会」設立10年 体験談まとめ記念誌も 24日に講演会 沖縄


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おきなわ「非行」と向き合う親たちの会(さんぽの会)の新代表になった河崎多恵子さん(右)と前代表の井形陽子さん=5月31日、那覇市泉崎の琉球新報社

 子どもの非行や問題行動に悩む保護者らが、悩みを共有したり、専門家を招いた勉強会を開いたりする、おきなわ「非行」と向き合う親たちの会(さんぽの会)が6月、設立10周年を迎えた。代表を務めてきた井形陽子さん(55)は「来てくれる人と一緒に育った会だ」と振り返る。10年の節目に、河崎多恵子さん(58)が新代表に就き「悩みを話し合い、聞き合い、互いの経験の中から学び合う」という設立当初と変わらない思いで、新たな出発点に立つ。

 10日には名護中央公民館で北部地域で初の例会を開催する。24日には那覇市の県総合福祉センターで10周年記念講演会を開催する。

 設立のきっかけは、井形さんの経験だった。息子の行動に悩み、周囲の誰にも相談できず孤独感に苦しんだ。「親たちが安心して悩みを話せる場所にしたい」。県外に同様の団体があることを知り、2013年6月に会を設立。子どもとの関係は三歩進んで二歩下がる毎日だが、それでも確実に一歩は前進しているという希望を込め「さんぽの会」とした。毎月第4土曜午後に保護者たちが悩みを語り、聞き合う例会を開催している。

 子の反発に悩む

 新代表の河崎さんは、設立当初から例会に足を運んだ会員の1人。夫と別居し、看護師として働きながら2人の子どもを育てる中で、当時は「自分が厳しくするしかない」と自らに言い聞かせた。子どもが問題を起こすと、人前で取っ組み合いをした。「周囲に『親としてこれだけちゃんとやっている』と示さなくては」。そう思い詰めての行動だった。どうしてこんなことをしたの?と話を聞くのではなく、力で押さえ込んだ。そうやって対抗すればするほど、子どもは強く反発した。

 10年前、当時14歳の娘が傷害事件を起こした。行き詰まりを感じていた時、偶然、会設立を目指す井形さんを紹介した新聞記事が目に留まった。理解してもらえるだろうかと不安もあったが、足を運んでみることにした。

 実際に自分の悩みを話してみると、普段流さない涙がぼろぼろとあふれ、止まらなかった。気持ちも少し落ち着いた。それ以降、時間を見つけて会に参加。他の参加者の体験を聞き、多くの気づきがあった。次第に、対話を通して子どもたちと向き合うようになり、子どもたちも母親の変化に気づいてくれた。成長した娘が会に参加し、当時の思いを話してくれたこともあった。

 安心できる場

 例会の参加者は、自分の体験を話しても話さなくてもいい。互いを尊重し合い、決して批判はしないなど、保護者らが安心して参加するための約束事がある。井形さんは「肩書きや職業は全く関係なく、名前を名乗らなくてもいい。対等な関係で悩みを話し合う場が大切だ」と語る。

 会員は40人前後で推移し、例会にはこの10年間で延べ1138人の保護者らが参加した。

 長年代表を務めた井形さんは世話人として引き続き会をサポートする。河崎さんは「自分の悩みを話せる場所は大切。今後も変わりなく、会を続けていきたい」と話した。

 月に一度発行の「さんぽ通信」には、参加した保護者や子どもたちが体験談を寄せた。今悩みを抱える保護者らに届けようと、これまで掲載してきた保護者の体験を10周年記念誌として発行する。24日の記念講演会で参加者に配布するほか、希望者に向けても販売予定だ。

 コロナ禍で例会会場が閉鎖されたり、参加者数が減ったりする時期もあった。2人は「だからといって悩んでいる保護者が減ったわけではないと思う。一人でも参加者がいる限り会を継続し、みんなでサポートしていきたい」。子育てに悩む保護者に寄り添い続けていく。
 (吉田早希)


24日に記念講演会 那覇・県総合福祉センター 10日、北部で初の例会も
 

 さんぽの会は、10日午後2~4時には、名護市の名護中央公民館第3研修室で、北部地域で初の例会を開催する。周辺地域の保護者のほか、在住場所に関係なく北部での例会に関心がある保護者の参加を呼びかけている。参加費は1人500円。

 また、10周年記念講演会「子育ての悩み どう向き合うか」を24日午後1時半~4時半、那覇市首里石嶺町の県総合福祉センター501教室で開催する。

 第1部は、「非行」と向き合う親たちの会(あめあがりの会)代表の春野すみれさんが講師を務め、多くの親や家族、青少年の相談に向き合ってきた経験などについて講演する。その後第2部では、参加した保護者らを中心に語り合う例会を予定している。

 講演会参加費は1人千円。参加者には10周年記念誌(保護者の体験談)を配布する。同会の井形陽子さんは「『非行』はどんな家庭にも起こり得ること。悩んでいる親たちに情報を届ける機会にしたい」と話した。

 参加申し込みは「さんぽの会」のメールokisanpo615@gmail.com、または、電話070(5403)1930(井形)。

 記念講演会のほか、月に一度の例会に関しても同メールと電話で問い合わせを受け付けている。