細胞培養の自動化で業界トップ級の製造量 再生医療の最前線に装置納品するフルステム(那覇市) さらなる効率化へ改良に着手


この記事を書いた人 琉球新報社
フルステムが開発した培養装置を紹介する新垣健司技術員(左)。装置改良事業では新垣友啓技術員(右)が触れるインキュベーターの機能を大きさそのままに内蔵する予定だ=うるま市の研究室

 バイオベンチャーのフルステム(那覇市、千葉俊明社長)が独自に開発した細胞自動培養装置の研究機関への導入が進んでいる。再生医療用の機器で、これまでに全国の大学や製薬会社に12台を納品し、生成した細胞を患者に投与する実証に向けた取り組みが動き出している。培養は人の手に頼る作業が多く、大量培養を実現した同社の装置を用いることで、大幅な効率化が期待されている。

 今後は、手作業をする必要のあった工程を1台で処理する技術を組み込むなど装置の改良に着手し、新規事業の展開も予定。千葉社長は「自動化できる部分が増え、ニーズに応えられると思う」と意義を語った。新装置の完成は年内を見込み、来年以降の普及を目指す。

 同社が取り組むのは脂肪組織から医療用の幹細胞を作り出す分野で、不織布を使って培養した細胞を傷つけずに回収する技術を世界で初めて確立した。投与することで、病気などで悪化した部位の再生を促す効果が見込まれている。

 確立した技術を基に治療用に大量の細胞を培養できる装置の開発にも2019年に成功。大手が先行してきた分野だが、1回の製造量として業界トップ級の治療20回分の培養処理量と小型化を実現したという。今月も3台の発注を受けるなど注目を集める。

 既存装置は医療用に必要な量を増殖させて回収する作業を自動化。一方、患者の脂肪組織から必要な細胞を取り分けるための初期培養は、市販のインキュベーター(保温機)を使った人的な技術に頼る部分が多かった。

 装置を改良することで初期培養のインキュベーター機能を内蔵した「ほぼオールインワンでできる装置」の開発に乗り出すことを決めた。既存装置を含め、5年後の売上高20億円を目指している。

 県の補助を受け、昨年には装置を用いて作られた細胞由来成分の初めての人体投与に成功したほか、同時期には三井化学と高機能不織布の共同開発を開始した。さらに県産業振興公社や沖縄総合事務局の支援を得て、ニーズ把握や新事業の着手を進めている。

 千葉社長は「インキュベーターも不要となり、再生医療に新規参入したくてもできなかったクリニックでも安価で品質の良い幹細胞の製造が可能になる。さまざまな支援を受けている沖縄の地から技術を発信したい」と新規展開に意欲を見せた。
 (謝花史哲)