人を支える故郷の景色 磯崎主佳(美術教師・絵本作家)<未来へいっぽにほ>


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磯崎 主佳(美術教師・絵本作家)

 私は沖縄戦の絵本を描く時、できるだけ現場に足を運ぶことを大切にしてきました。戦中は地形も変えてしまうほどの砲弾が撃ち込まれたと言われてますし、戦後の基地建設や土地開発によって失われてしまった景色が多いです。それでも体験者が「あの頃」を語る時、心に浮かべる山や浜辺、田んぼなどの懐かしい景色は、なるべく絵本に取り入れてきました。戦争絵本はつらく苦しい場面が続きます。その中に1ページでも故郷の景色が入ることは、つらい記憶に向き合う体験者の励ましになると感じています。

 今、私は勤務する学校の平和学習の準備で南城市出身の男子学徒隊の証言記録を読んでいます。その中でも故郷の景色が印象的に語られる記録がいくつかあります。

 6月の末、戦況が厳しくなり、摩文仁まで追い詰められた学徒は海岸を逃げ惑います。大岩の傍らに出ると、パッと視界が開かれ、故郷の玉城城が見え、途端に大粒の涙が溢れ流れたとありました。

 また別の学徒は摩文仁で重傷を負い、下士官に自決するよう言われて置き去りにされながら、ここは摩文仁で故郷が近い、もう一度、生まれ育った百名が見たいという意識が強く働き、最後の力を振り絞って歩き始めたとありました。

 生きるか死ぬかの瀬戸際で、国のため、天皇のために命をささげるという教えを飛び越えて、自分の生まれた場所に帰るのだ、という思いに至らせる故郷の景色。ごく当たり前に見てきた山や海の自然の恩恵は、時を経てから気付かされ、実は深いところで自分を支え続けている大切なものだと思うのです。