今年の梅雨はとても雨の量が多かったですね。雨の時期に良く見る生きものと言えば、カタツムリです。童謡にも歌われ、皆さんにもなじみ深い生きものでしょう。カタツムリとひとことに言っても、良く見ると色や形はさまざま。一般的に「陸にすむ巻き貝の仲間」をカタツムリと言い、カタは頭にかぶる「笠」から、ツムリは古語で巻き貝を意味する「つぶり」から来ていると言われます。漢字では「蝸牛」と書きます。中国で「渦巻き状の殻を持つ、角が生えた牛のような体型」を意味します。カタツムリは移動する能力が低く、地域や島ごとに種類が異なっています。沖縄でもその島の固有種、というのが多く見られます。今回の「沖縄生きものマスター」は、カタツムリの生態や沖縄で見かけるさまざまな種類について紹介します。(2022年06月26日付 りゅうPON!掲載)
マイマイは雌雄同体
「カタツムリ」は、生物学的には軟体動物門、腹足綱に属していて、大きく原始紐舌目(ヤマタニシ類)と、有肺目(マイマイ類)の2群に分かれます。ヤマタニシ類は巻き貝にふたがあり、1対の触覚の付け根に目があります。一方、マイマイ類にはふたはなく、触覚は大小2対あって大触覚の先端に目があります。
二つの仲間は生殖方法にも違いがあり、ヤマタニシ類は雌雄異体、マイマイ類は雌雄同体です。雌雄同体というのは一つの個体が雄と雌の両方の器官を持っています。交接のときは、二つの個体が、それぞれ胴体の側面にある生殖口から伸ばした雄の生殖器を相手の生殖口に差し込み、精子をやりとりします(図と写真)。ちなみに、アフリカマイマイのような大型種は数年、ウスカワマイマイのような小型種は1年程度の寿命とされています。
アフリカマイマイ
学名:Achatina fulica
殻の長さ約70ミリの大型種、東アフリカ原産で食用に移入
カタツムリの餌は生の葉っぱ、枯れ葉、藻類、菌類など。口の内側の上部にある「顎板」と下部にあるおろし金のような「歯舌」があり、これらを前後させ植物を削り取り食べます。森林の生態系では落ち葉などを食べ粉砕することから分解者として重要な働きをします。ときどき、建物の壁面に生えた藻類をカタツムリが食べた跡「食痕」を見つけることがあります(写真)。
移動苦手、島で固有種に
一方、カタツムリは森林にすむ多くの動物にとって重要な餌資源でもあります。カタツムリは陸棲ホタル(幼虫)やマイマイカブリなどの甲虫のほかに、リュウキュウヤマガメ、イノシシ、アカショウビンなどの脊椎動物などにも捕食されます。石垣島や西表島にすむイワサキセダカヘビのようにカタツムリを主な餌にするヘビもいます。
カタツムリの仲間は山や砂漠、海や川を越えて分布を広げることが困難です。地域ごとに種が分かれ、南西諸島や小笠原諸島では島ごとに固有種が多く見られます。沖縄県全体で26科69属181種が報告されています。うち沖縄諸島の32種、伊平屋・伊是名の4種、久米島の5種、石垣・西表の24種、与那国の6種、尖閣の7種(計78種)が各島々の固有種で、その割合は43%となります。地域や島の成り立ちを研究する上でもカタツムリは重要な生物群といえます。ちなみに、“殻を捨てたカタツムリ”がナメクジです。
(監修、写真提供 安座間安史・琉球大学教育学部教職センター非常勤講師)
ヤンバルマイマイ
学名:Satsuma atrata
殻の直径約35ミリ、沖縄島北部(ヤンバル)の固有種
オキナワウスカワマイマイ
学名:Acusta despecta
殻の直径約20ミリ、家屋周辺に多く、丸みのある殻が特徴
ヒラコウラベッコウガイ
学名:Parmarion martensi
体長約20ミリ、退化しただ円形の殻が特徴
オキナワヤマタニシ
学名:Cyclophorus turgidus
殻の直径約20ミリ、褐色の斑模様とふたが特徴。沖縄島中南部に多く見られる
<まめ知識>
カタツムリは人との関わりも深く、フランス料理の「エスカルゴ」が有名ですが、沖縄でも貴重なタンパク源として、1960年代ごろまでは、ウスカワマイマイやアフリカマイマイなどを煮て食べることがありました。しかし、多くのカタツムリが「広東住血線虫」という寄生虫を持っていることが分かり、生で食べたり加熱が不十分だったりすると危険だとされ、一方で食生活も充実してきたことから現在は食べることはほとんどなくなっています。また、1960年代ごろまでは、カタツムリの殻をぶつけ合い、どちらが先に壊れるかを競う「チンナンオーラセー」という遊びをする子どももいました。