真夏の沖縄と言えば、青い空と青い海、そして「白い砂浜」を思い浮かべる人も多いでしょう。沖縄県民にとっては当たり前の白い砂浜ですが、県外から来た観光客にとっては珍しく、その美しさに歓声を上げます。実は、沖縄以外の46都道府県では、砂浜の色は灰、もしくは黒が当たり前なのです。本土の砂浜の砂をルーペで拡大すると、ほとんどが内陸部の岩石が細かく砕かれて、風化してできた白・黒の鉱物からなる砂粒であることが分かります。一方、沖縄の砂浜はほとんどの砂・礫が、サンゴ・貝・カニなどの殻の破片や魚の骨、これらが細かく砕かれた砂粒からなります。今回は、いつもと視点を少し変えて、沖縄の自然を象徴するサンゴ礁が、沖縄の歴史や文化、産業をも支えてきた資源であることを紹介します。(2021年08月22日付 りゅうPON!掲載)
石灰岩となり暮らし支え
沖縄の白い砂浜の正体は、サンゴ礁にすむ生きものたちの遺骸(骨格片)が打ち上げられてできたものです。サンゴ礁は魚、貝、カニ、ウニなどの“ゆりかご”。やがて、サンゴ礁に囲まれた礁池(リーフ)の内側の砂浜にそれらの遺骸が厚く堆積します(図1)。サンゴ礁の基盤となるサンゴ塊とともに、厚く堆積した砂浜(砂礫の層)は、その堆積圧と海水中のカルシウムによって固結、圧縮されていき、多くの穴が空いた多孔質の岩石、石灰岩に変化します(図2)。
沖縄島の中南部に広く見られる琉球石灰岩は約100万~50万年前に島の海岸にできた砂浜が固結した岩石と考えられています。サンゴを多く含む「サンゴ石灰岩」のように、遺骸の種類の多さで有孔虫石灰岩、石灰藻球石灰岩、砂礫質石灰岩などに区別されます。
琉球石灰岩は生物の骨(炭酸カルシウム)が基になっているので、他の火成岩や堆積岩などの岩石に比べ、軟らかく加工しやすい岩石です。沖縄ではグスク(城)の城壁や屋敷の塀、石畳に使われるほか、赤瓦屋根をふくのに使うしっくいも石灰岩とわらが材料となっています。このように、石灰岩は沖縄では身近な建築材として利用されてきました。また数少ない沖縄の鉱物資源であり、セメントの原料でもあります。
石灰岩は炭酸水に溶けてしまいます。そのため、石灰岩台地では地下の石灰岩が炭酸混じりの雨水に溶かされて鍾乳洞や地下河川が発達します(図3)。
石灰岩台地である沖縄島の中南部や宮古島では地表を流れる河川は少なく、代わりに石灰岩台地の割れ目から湧き出る湧水(カー)が多く、その周辺にグスクや集落が発達しました。首里城周辺は典型的な例です。石灰岩が風化してできる土壌、島尻マージはアルカリ性で野菜栽培に適しています。
サンゴ礁の生きものたちが基になってできた白い砂浜、石灰岩はさまざまな面で沖縄の人々の暮らしを支えているのです。
(監修・安座間安史 琉球大学教育学部・教職センター非常勤講師)
<まめ知識>
沖縄のサンゴ礁は「北限のサンゴ礁」として、オーストラリアのグレートバリアリーフに負けないくらい多様性の高いサンゴ礁であることが知られています。本来ならサンゴ礁が発達することのない高緯度であるにもかかわらず、なぜほかの地域に比べても多様なサンゴ礁が発達したのでしょうか。
まとまったサンゴ礁が発達するためには(1)暖かく(水温25~30度)、(2)透き通った、(3)塩分濃度の高い(3~4%程)海水環境が必要です。
光合成を行う藻類の褐虫藻と共生しているサンゴには、光が十分に届く透明な海が大事な生育環境となります。
沖縄周辺の海は、温暖で透明で塩分濃度の高い「黒潮海流」が島々の周囲を洗い流してくれることで北限のサンゴ礁が支えられているのです。ちなみに河口のように、淡水で塩分濃度が下がり、泥土混じりの陸水が流入するような環境ではサンゴ礁は発達しません。
サンゴ礁、どんな形で生活と関わるの?
・魚のわく海…サンゴ礁は「海の畑」とも言われ多くの魚介類の生活の場です。私たちは水産漁業でその恩恵を受けています。
・自然の防波堤…台風時の波の影響を和らげます。津波の影響も防いでくれる自然の防波堤として重要な役割を果たします。
・観光資源…沖縄観光でも「青い海」と「白い砂浜」、色鮮やかな「サンゴ礁の生物たち」は大きな見どころの一つです。
・鉱物資源…古期石灰岩は、セメントの原材料となり重要な建築資材として活用されています。
・二酸化炭素の貯蔵庫…二酸化炭素(CO2)は、造礁サンゴ類の光合成の材料、石灰質の骨格を形成する原材料としても利用されます。これら造礁サンゴやサンゴ礁にいる魚介類は死後石灰岩となり、大量のCO2の貯蔵庫として地球大気の安定化の上で大変重要な役割を果たしています。