高校・大学生向けに「老年学」の教科書を計画 琉大大学院教授の下地さん 人生100年時代「職業選択や人生設計を考える機会に」


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今帰仁村の高齢者30人への聞き取りを通して健康長寿の秘訣を探った下地敏洋さん=5月22日、西原町の琉球大学

 琉球大学教職大学院教授の下地敏洋さんが老年学を題材に、高校生・大学生らに活用してもらう教科書づくりに取り組んでいる。人生100年時代と言われ、長い高齢期(65歳以上)をいかに健康で豊かに生きるかが関心事になる中、下地さんは老いの価値を探る教育老年学に着目。教科書を活用した授業で、老いの過程を正しく理解してもらうとともに、「超高齢社会を生きるための職業選択や人生設計を考える機会にしてほしい」と考えている。

 下地さんの専門は老年心理学と老年社会学。祖父母の死をきっかけに老年学に関心を抱き、米国の大学院で老年学、県立看護大大学院で成人老年保健看護学を学んだ。

 教科書づくりに向けた基礎調査として2019年5~7月に、共同研究者とともに今帰仁村内在住の高齢者から聞き取り調査を実施し、健康長寿に影響を与える要因を探った。協力者は75歳~98歳までの自立生活を送る30人。今帰仁村を対象にしたのは10万人当たりの100歳以上の割合が高いため。地域医療に携わる医師の推薦を受けて協力を依頼した。共同研究者は今帰仁診療所院長の石川清和さん、看護師の砂川直子さん、保健師の森田侑希さん。高齢者30人と面談し食生活や地域での交流、家族関係、人生観、地域行事・伝統行事への参加など20項目を中心に、食生活習慣・人との交流の有無と健康長寿との関連性を考察した。

地域のデイサービスで交流しながら身体を整える高齢者ら=2022年10月26日、今帰仁村内(下地敏洋さん提供)

 聞き取った内容を類似するキーワードに分類したところ、食生活では「栄養バランス」「イモ・豆類」「健康管理」「好物を食べる」などが数多く話題に上っていた。「我慢しない」という回答もあった。地域の交流としては「デイサービス」「グラウンドゴルフなど運動」「地域行事」「親睦模合」「農作物の栽培販売」などが長寿者に共通する項目として上がった。伝統行事への参加について6人に1人が「清明祭での役割」を上げ、行事をきっかけに子や孫が来訪し、食事を振る舞ったり墓前に集まったりする習慣が生きがいにつながっている様子も浮かび上がった。

 下地さんが編者となり今年3月に報告書を発刊した。下地さんは「世代間交流、日々の活動、安心感、栄養バランスの良い食事が健康長寿の影響要因として推察された。そのためには健康、(地域に)住み続ける、役割・義務、良好な人間関係が大事」と指摘する。さまざまな人と交流し、共に生きる能力を培うために「教育や社会システムのあり方が問われる」と提起した。

 「昔はぜいたくが良いと思ったら今は危ないと考える」「人生は当たって砕ける」という言葉が印象深く「話の中で常に笑いがあった」と目を細めた。また「苦労話も多く、報告書には盛り込めない記述もあった」と振り返る。

 報告書は非売品だが、関心のある人に無料で提供する。17日と24日の午前10時半(受付け10時)から、琉大教育学部棟101号で「老年学への招待」と題して公開講座を開催する。事前申し込みを受け付けるが直接会場へ足を運んでも受講できる。問い合わせはshimoto@edu.u-ryukyu.ac.jp
 (高江洲洋子)