熱帯や亜熱帯の海岸に広がるマングローブ林。海と陸の境目に広がる豊かな緑は、動植物の命を育む生命のゆりかごです。実はマングローブは1種類の植物ではなく、河口の湿地帯や干潟など、淡水と海水が混じり合う汽水域に生える植物をまとめてそう呼びます。ほかの植物が生きられない厳しい環境で生き延びるため、独自の機能を発達させてきました。県内に分布するマングローブは5科7種。その中から最もよく見るヒルギ科のメヒルギ、オヒルギ、ヤエヤマヒルギを紹介します。(2020年06月28日付 りゅうPON!)
親元で芽吹く胎生種子
マングローブ植物の一番の特徴は増え方にあります。普通の樹木は親となる木で種が成熟し、その種が地面に落ちてしばらくすると芽が出ます。ところがヒルギ科の種は親となる木にくっついたまま種が発芽してある程度育ってから切り離されます。落ちた種は海面を漂って移動し、泥に定着したらすぐに根を伸ばして成長を始めます。種が親となる木についたまま苗木になることから、親の胎内で成長するほ乳類の胎児に例え、ヒルギ科の苗木を「胎生種子」と呼びます。
またマングローブ植物の根はタコの足のように地上にたくさん出ていたり、板のように張り出したりと独特な形をしています。これはマングローブが生きる河口は柔らかい泥や砂地のため、よりしっかり木を支えるため根が発達しているのです。また、根の地下部分はいつも水に浸かっていて呼吸がしづらいため、水から出ている部分で呼吸することができます。この根を呼吸根と呼びます。
(監修・漫湖水鳥・湿地センター 池村浩明さん)
●メヒルギ
高さ4~7メートルになる小高木で、葉は先端が丸みをおびた楕円形。4~5月ごろに白い花が咲き、翌年3~4月に長さ20センチほどの表面がつるつるした胎生種子をつけます。根は薄い板根です。胎生種子がかんざしに似ていることからリュウキュウコウガイとも呼ばれます。
分類:ヒルギ科メヒルギ属
学名:Kandelia obovata
方言名:インギー、ピニキ
●オヒルギ
高さ5~10メートルになる亜高木で、葉は先端がとがった長楕円形です。根元に膝を曲げたような形の膝根をつくります。6~7月ごろ、赤い釣り鐘状のがくの内側にだいだい色の花が咲きます。翌年5~6月に長さ15~20センチのがっしりした胎生種子をつけます。赤いがくからアカバナヒルギとも呼ばれます。
分類:ヒルギ科オヒルギ属
学名:Bruguiera gymnorhiza
方言名:インギー、ピニキ
●ヤエヤマヒルギ
高さ10メートルにもなる高木で葉は、楕円形で葉の先にとがった突起があります。根は幹の根元近くや枝の途中からたこ足のように伸びていきます。5~7月に白い花が咲き、翌7~8月に20~30センチのイボ状のぶつぶつがある胎生種子をつけます。沖縄本島東村慶佐次が北限です。
分類:ヒルギ科ヤエヤマヒルギ属
学名:Rhizophora mucronata
方言名:プシキ、インギー
<まめ知識>
一般的に植物は塩分に弱く、水や土の塩分濃度が高くなると枯れてしまいます。しかし海水が入り込む場所で生きるマングローブは、体内から塩分を取り除く仕組みを持ちます。
メヒルギには根に塩分をろ過する仕組みがあります。オヒルギには茎で塩分をブロックする仕組みがあります。ヤエヤマヒルギは両方の機能を持ちます。
それでも入ってしまう塩分は古い葉にため込み、その葉を切り離して排出します。ヒルギの木をよく見ると、黄色に変色した葉を見つけることができます。これが塩分をため込んだ葉です。マングローブ林の根元にはたくさんの黄色の葉が落ちています。