【記者解説】米軍、地位協定の特権を利用 国内法の対象から外れ、PCB廃棄物の総量把握できず 基地周辺の安全性に懸念


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米軍基地返還跡地のサッカー場からPCBを含む廃棄物を搬出する作業員=2016年11月、沖縄市

 人体に有害なポリ塩化ビフェニール(PCB)廃棄物について日本政府が米軍が保管する総量を把握できていないのは、日米地位協定で温存されている特権を背景に米軍が日本の国内法に沿った対応をしていないためだ。国内の民間事業者ならPCB保有状況の届け出が義務付けられているが、米軍は対象から外れている。

 PCBは有害物質であるため、国はPCB特別措置法で総量を把握し、リスクを管理している。だが多くのPCBを保有している可能性がある米軍の実態を捉えきれなければ届け出制度の意義が減ずる。過去には県内でPCB汚染が発生した事実もあり、基地周辺の安全性も懸念される。基地が返還された後の跡地利用の障壁にもなる。

 地位協定は日本国内法を尊重すると定めているが、順守義務はない。だが、国内法の趣旨を逸脱することまで容認されるとは言いがたく、米軍は特措法を尊重し、自らの責任で本国に持ち帰るなど対応しなければならない。日本政府には米軍に法の趣旨を理解・徹底させる責任がある。

 米軍はこれまで複数回、PCB廃棄物を米本国に送って処分してきた。ただ、有機フッ素化合物(PFAS)汚染水を巡っては費用負担を軽くするために地域の下水に流したり、日本政府に引き取らせたりしてきた経緯もある。米軍が自らの責任を回避しようとする可能性もある。

 PCBは変圧器や蓄電器など民間でも利用するものに使われる。処理期間を過ぎた高濃度のPCB廃棄物が残っている可能性もある中、廃棄物が適切に処理されたか把握するためにも、米軍にはPCBの保有状況を厳密に報告することが求められる。
 (明真南斗)