奈良の麻織物と沖縄の藍型 両地域つなぎ商品開発 河瀬直美エッセー<とうとがなし>(6)


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 沖縄県北部の今帰仁村で琉球紅型・藍型を手掛ける紅型工房ひがしやさんを訪問したのは2022年の初夏であった。琉球舞踊家の宮城茂雄さんの舞台衣裳を手掛けられたご縁から紹介いただいた。まだ若いご夫婦が自宅兼工房として活動されている場所には可愛い女の子のお子さんがふたり、お庭のビニールプールで水遊びをしていた。

 旦那様の道家良典さんは北海道のご出身ではあるが沖縄の城間びんがた工房さんで修行を積み、独立された職人さんだ。主に奥様の由利子さんが絵を描き、それを彫って型を作る。染めてゆく工程は地道な作業である。来る日も来る日も夫婦はたったふたりでコツコツと作業を進める。その姿を見学させていただきながら、私の中にあるひとつの出逢(であ)いを思い付いた。

筆者・河瀬直美(後列中央)と紅型工房ひがしやの道家良典さん(同右)、道家由利子さん(同左)、子どもたち=今帰仁村の同工房

 奈良には昔から奈良晒(さらし)という麻の織物がある。現在では手績(う)み・手織の麻織物を活用して小物などの商品を展開しているお店が数軒ある。その中でも井上企画・幡(ばん)というお店のオーナーと今年になってご縁があり、以前から顔見知りではあったが、急速にお近づきになれた。

 現在、この会社ではレストランを運営したり、雑貨や衣類などの販売を展開されたりしているが、元々は写真家・井上博道さんのお店として私自身は馴染(なじ)みがあった。奈良の四季から沖縄の文化・風習などを記録した写真まで非常に興味深い作品に注目していた。80歳になっても精力的に全国を写真撮影の為に行脚する姿に励まされていたが、そんな撮影中の事故で帰らぬ人となった。

 現在は娘の千華さんが社長として50名以上のスタッフと共に会社を経営されている。彼女に麻織物にオリジナルデザインの柄を沖縄の紅型で染め、名刺入れやポーチなどの雑貨を商品開発しないかと持ちかけたところ、ふたつ返事で賛同してくれた。デザイン案から、型を彫り、染めの作業を施し、色味や濃淡までやりとりを繰り返し、沖縄と奈良を結んだプロジェクトを進めてきた。そうして構想から約1年の月日をかけて商品が完成した。6月の25日より「沖縄×奈良展」と題して、幡の本店にて7月4日までフェアを開催することとなった。会期中、ショップに併設しているカフェでは泡盛を使った煮豚や島らっきょうの天ぷらなど、限定ランチメニューを提供している。今後沖縄でも同様のフェアを開催してゆきたいと想う。

 日本を代表する染色技法として認知度の高い沖縄独特の華やかさが魅力の染物を、今回はシンプルに藍と墨の2色展開とした。墨は発祥の地、奈良のものを使用。琉球藍型との発色の差を見比べながら、同じデザインでもこんなに印象が違うのかと勉強させてもらっている。まだまだ奥の深いこの技法をこれからももっと学んで世界に発信してゆけたらと夢は膨らむ。

(映画作家)