くらうでぃ/妻咲邦香 選外佳作1・一億光年の輪舞(ロンド)/高柴三聞 選外佳作2・拍動/與那嶺隆人<琉球詩壇・7月8日>


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 山城 祐樹

くらうでぃ 

妻咲邦香(長野県)


 

くもりのちあめのひのしんごうきは
あかすぎる、と
あおすぎる、が、あって
きいろだけは、すぎないから
ちょっとだけうれしそう

わたしたちはおもちゃばこのなか
うみすてられて、おいてかれた
ひかりにおぼれてせかいは、およげないから
いきつぎのほうほう、おしえてあげる
だからあいにいくよ
きょうも、へたくそなせかいに
そんなきょうが、ぶるーでありませんように
そしてきいろでいられるじかんが
すこしでも、ふえますように
あいしてるってこころでさけぶのは
だれにでもゆるされたけんり
だからほおっておいてと
ぴしゃりとしめたとびらのすきま
そっとのぞいたおもてどおり
なんてすてきなくらうでぃ
わたしのすきなそらがあって
あえなくても、あいたいままでいていいと
いってくれているそら

ねえわたしたちって
ともだちになれるのかな
こんなすてきな、くもりときどきあめのした
あいしすぎないように
はっきりしないでいてあげるから


西原裕美・選

寸評

曇りや雨の景色や、その時の色を感じさせる。あいまいな景色と人間関係のイメージが重なって膨らんでいく。


 

選外佳作1

一億光年の輪舞(ロンド)

高柴三聞(浦添市)

 

午前四時の街の外れ
一人の男がスナックの扉からまろび出てきて
自らの不運と受け入れられない愛を
力いっぱい嘆き呪いながら
電柱を抱きしめて、あらん限りの声で叫んだ
その前を配達の段取りに余念の無い
新聞配達の中年男が通り過ぎる
配達の男の向かった先のパン屋からは
今まさに焼かれている最中のパンの香りが
静かに漂ってくる
バス停のベンチに心無い細工がされていて
ついさっき降りやんだ小雨に湿っている
誰かの無慈悲を天は悲しんだのだろうか
県道はタクシーやトラックが行き交う
不夜城さながらにコンビニの灯りは煌々と
派手な衣装の女が崩れた化粧のまま
疲れた顔で弁当とビールと煙草を買い求める
三件隣のアパートのどこかから
鳥の囀る声がして月の子守歌がはじまる
すっかり傾いた月は今宵どんな目で
人間達を眺めたのだろう
月はいつも仏頂面で冷たい光を放っている
夜の終わりは朝の始まりで永久の輪舞(ロンド)が続く
希望か絶望か性懲りも無く今日がやって来る
悔いが改まる間もなく一日は非情な顔で
訪れて僕らの気持ちを
置き去りにして消えていく
それでもそんなことはお構いなしに
赤ん坊の顔した太陽が再び生まれて来るのだ


選外佳作2

拍動

與那嶺隆人(南風原町)

 

落ちぶれて
失くしちまった
自我のタネ
生きる才能
がないのでせう

糸垂らす
洗面鏡(せんめんかがみ)
蜘蛛の微笑
生きる才能
に渇欲すれども

洗面台
真っ赤な薔薇が
咲きました
短い命に
嗤う鏡面

枯れ鬼灯
緋色の種子が
脈打ちて
拍動する
啼泣の夕