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伊平屋酒造所が新泡盛「北緯27度」 かつて”祖国”との境界線が通った島、創業75年の歴史を継ぐ


この記事を書いた人 Avatar photo 與那嶺 松一郎
伊平屋酒造所の新商品「北緯27度」=伊平屋酒造所提供

 沖縄戦の3年後に開業した創業75年の伊平屋酒造所(伊平屋村、保久村政代代表)はこのほど、2022年12月に共同代表に就任した竹本進之介さん(39)=東京都出身=が中心となり、新商品を発売した。1972年の復帰まで米統治下に置かれた沖縄と本土側の分断を象徴する北緯27度線が県内で唯一地上を通過する伊平屋村の新たな泡盛の商品名は「北緯27度」。竹本さんは「戦後、復帰、現在をイメージして伊平屋酒造所の『古酒たつ浪』『照島』『しまぐみ』をブレンドした」と仕上がりに自信を見せた。

 度数を27度、価格も2700円(税抜き)と「27」にこだわり抜いた。

 竹本さんは琉球大学農学部で農業経済学を研究。地方銀行、税理士事務所での勤務を経て、沖縄総合事務局からの受託事業として琉球泡盛海外輸出プロジェクトに関わった経験から「泡盛を通じて地域を活性化したい」との思いを抱いていた。

 伊平屋酒造所は48年に保久村昌弘さんら島民による酒造組合として設立された。74年に昌弘さんが代表となり民間会社として船出した。竹本さんは2代目の昌章さん(享年62)と親交があり、闘病中の昌章さんに請われ、経営に携わることになった。昌章さんは共同代表として妻や息子たちを支えてほしいと竹本さんに伝え、2022年10月に他界した。

 竹本さんは「自分にできるかどうか悩んだが、これまでの経験や知識を伊平屋酒造所存続に役立てようと思い決断した」と同年12月に共同代表に就任した。

共同代表としてタッグを組んだ保久村政代さん(左)と竹本進之介さん(伊平屋酒造所提供)

 生前、昌章さんからマーケティングやブランディングなどについて相談を受けていたという竹本さんは、伊平屋酒造所の公式サイトやSNS、YouTubeなどを積極的に活用し、県内外に商品をPR。商品の製造を担う昌章さんの長男の将貴さん(35)や次男の貴洋さん(32)らを広報や財務などの分野で支える。

 伊平屋村では今年6月、北緯27度線モニュメント広場が村島尻に整備された。同村は北緯27度線をテーマにした新たな観光コンテンツの創出に取り組んでおり、伊平屋酒造所の8年古酒720ミリリットルの「北緯27度」は県内外に伊平屋村をPRする商品の一つとなった。
 (普天間伊織)