【記者解説】サンゴ移植指示を巡る係争委の判断、国と自治体の対等性を軽視 国の強権に対する考慮が不足


この記事を書いた人 琉球新報社
水中接着剤で固定され、他海域から「移設」されたサンゴ=3日、名護市の大浦湾

 米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設事業で、政府が進めようとする大浦湾からのサンゴ類移植を巡り、総務省の第三者機関「国地方係争処理委員会」(菊池洋一委員長)は14日、農林水産相が沖縄県に移植を許可するよう指示(是正の指示)をしたことは違法ではないと判断した。農水相の是正指示が違法で無効だとしていた県の主張は退けられた。係争委の判断は、法律を言葉通りに捉えただけの形式論に終始している。国と自治体の対等性を定めた地方自治の本旨などを軽視する結果となったと言わざるを得ない。

 本来は地方の決定を尊重する立場から国による関わりは最小限にとどめなければならない。今回、係争委が認めた国の主張が通れば、国があらゆる地方自治体の決定を覆すことも可能となる。

 大浦湾のサンゴ移植を巡って事業主体である防衛省は県から不許可処分を受けた後、農水相に対して県の処分を取り消すよう審査を求め、農水相は防衛省の主張を認めて県の処分を取り消す裁決をした。農水相は辺野古移設を進める内閣の一員で、審査の中立性は証明できない。さらに農水相は、その裁決の拘束力を根拠にサンゴ移植を許可するよう是正指示をした。

 係争委は、政府内だけの手続きで導き出した裁決を基に、さらに是正指示をすることを認めた。地方と対立する事柄について国が進めることが適正なのか、中立的な立場から判断するのがこの第三者機関の役割であるはずだ。

 裁決と是正指示という別々の手続きを組み合わせることによって本来想定されていない強い権限を国が持つ可能性について、係争委の考慮は不足している。
 (明真南斗)