新型コロナとHIV ハイリスク者を守るために <じぶんごとで考えよう HIV/エイズ>15


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 この原稿を書いている2023年7月4日、沖縄県の医療現場は逼迫しています。私の勤務している病院では、入院中の患者さんから新型コロナ陽性の患者さん(院内クラスター)が多発し、病院機能が制限され、通常の診療に支障を来しています。新型コロナが5類感染症に移行後、沖縄は既に多くの観光客が訪れています。この病原体が存在しない世界と存在する世界が、交わることなく分断されているかのようです。

 HIV陽性の患者さんが、医学的にHIVウイルスをコントロールし、免疫状態が正常に近い状態で日常生活を問題なく過ごすこと。これが私の願いです。近年の抗ウイルス薬の進歩で、検査結果上でのウイルス量と免疫状態の正常化は問題ない状態で維持される例がほとんどです。

 その一方で、コントロールが困難な諸問題について相談される機会が増えています。肥満に伴う脂肪肝や糖尿病、高血圧、飲酒、喫煙などの生活習慣に関わる問題を抱えた方は新型コロナにかかるハイリスク者です。実際にかかった方は一様に「つらい」と言います。全身倦怠(けんたい)感、咽頭痛、長引く咳、そして治療法の確立していないさまざまな後遺障害。この病気にかかることは損です。かからないに越したことはありません。

 健康な若者がかかっても「軽症」のまま、チョウの羽ばたきのように感染症の波が広がり、沖縄の大きな感染者集団の最も周辺にいる、ハイリスク者がかかったらどうなるのか、想像してみてください。新型コロナはハイリスク者の体力を奪い、寝たきりにし、基礎疾患を悪化させ確実に医療機関へ向かわせます。健康上の諸問題をできるだけ解決していくことが必要です。

 HIV陽性の方々には、新型コロナのワクチンの接種ならびに追加接種が推奨されています。肺炎球菌ワクチン、季節性インフルエンザワクチンはじめ、担当医の外来で接種を相談するワクチンのひとつです。

 HIV感染症が人ごとでないと思うなら、HIV陽性者の方々を守るため、ご自身の大事な方を守るため、あなた自身が健康でいてください。そのために今何をすべきか、しばし考えてみてください。今すぐできることがあるはずです。

(成田 雅、県立南部医療センター・こども医療センター 感染症内科)