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人間国宝と学生、歌三線で響き合う 高音が出なかった若手時代、課題克服の逸話も 県立芸大で特別公演


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フィナーレの斉唱「かぎやで風節」で県立芸大の学生たちと一緒に演奏する(前列左から)西江喜春と中村一雄=7月14日、那覇市の県立芸大奏楽堂ホール

 「人間国宝による特別公演」が7月14日、那覇市の県立芸大奏楽堂ホールであり、重要無形文化財「組踊音楽歌三線」保持者の西江喜春と、重要無形文化財「琉球古典音楽」保持者の中村一雄が出演した。昔節や仲風の独唱のほか、県立芸大の学生たちとの共演もあった。人間国宝の味わい深く完成された歌三線と学生たちのみずみずしい歌三線が奏でられた。

 公演は、県立芸大による特別講座の一環。公演に先立ち、西江と中村が学生らを対象に講座を開き、演奏の指導をした。

 公演は、野村流の「稲まづん節」「早作田節」の演奏で幕を開けた。中村から一人ずつ指導を受けたという照屋綺恵、宮里ひなた、親田鈴が演奏し、清涼感ある歌声が会場に響いた。

 続いて人間国宝2人による昔節の独唱が披露された。中村は「ぢゃんな節」を歌った。繊細で滋味深い歌声が追憶の音色を響かせた。西江は「十七八節」を歌った。奥行きのある張りのある歌声を披露した。

 休憩開けは、西江の指導を受けた安冨祖流の学生たちによる独唱で「仲間節」を山城美帆、「赤田風節」を名嘉真蒼織が歌った。どちらも華やかで優雅な歌三線を披露した。野村流による斉唱「なからた節」「瓦屋節」「しやうんがない節」は、久保拓弥、高松大智、知花栄汰が歌った。野村流らしく直線的な美しさを感じる歌声だった。

 「仲風の世界」として、中村が「本調子仲風節」、西江が「二揚仲風節」を歌った。中村は「流れるように歌いたい」という言葉通りなめらかな歌三線で、自然の豊かさや壮大さを緻密に表現した。西江は、冒頭の高音から圧倒的な声量を披露。若い頃は高音が出なくて稽古を重ねたというエピソードも明かされた。

 フィナーレは、中村、西江、仲嶺伸吾、山内昌也、新垣俊道らと学生たちによる「かぎやで風節」で幕を閉じた。

 公演では中村から「将来を見据えて次の世代につなげて」、西江からは「続けることが何よりの力になる」とのメッセージも伝えられ、人間国宝の技芸だけでなく思いも受け継がれる舞台となった。
 (田吹遥子)