敗戦知らず2人の日本兵が潜んだガジュマル 台風で倒木も“復活”目指す 戦争の記憶を「後世に」 伊江島


この記事を書いた人 琉球新報社
台風6号の影響で倒木したニーバンガズィマール=11日、伊江村西江前

 【伊江】台風6号の暴風で倒れた伊江村西江前のガジュマル(ニーバンガズィマール)を復活させる取り組みが始まっている。終戦後、敗戦を知らない日本兵2人が2年あまり生活した木として知られる。倒れた木を元通りに立て直し、支柱を強化する方針だが、復活するかは未知数。10年以上、樹木の管理をしている同村の宮城孝雄さん(74)は「また青々と茂ってほしい」と望みを託す。

 ニーバンガズィマールは、1945年8月15日の終戦後、島に残されて敗戦を知らない、うるま市出身の佐次田秀順さんと宮崎県出身の山口静雄さんの2人の日本兵が、米兵から身を隠すために生活した。作家の故井上ひさしさんは、この実話を基に劇「木の上の軍隊」の原案をつくった。

 伊江村によると、木を植え直す作業は13日に始まった。今後、土台の土を入れ替えるほか、倒木を防ぐ支柱を強化する方針だという。

佐次田秀順さん(前列右から3人目)が生前、家族と一緒にニーバンガズィマールの前で撮影した写真(佐次田満さん提供)

 ガジュマルに身を隠し生き残った佐次田さんの息子の満さん(75)=うるま市=は9日、伊江島を訪れて倒木を確認し「本当にショックだ」と語った。2009年に亡くなった佐次田さんは生前、「生き残った人の責務だ」と語り、伊江島の慰霊祭にほぼ毎年足を運び、ガジュマルも訪れていたという。満さんは「この木がなければ私たちはいなかったかもしれない。すぐには戻らないと思うが、なんとか後世に残ってほしい」と復活を願った。

 ニーバンガズィマールを別の形で継承しようとする動きもある。東日本大震災を生き残った岩手県の「奇跡の一本松」や広島県の被爆樹などの樹木から木製の小笛「コカリナ」を作り、地元の子どもらに寄贈してきたコカリナ奏者の黒坂黒太郎さん(74)=東京都=は、木の枝でコカリナを作り、地元の小学生らにプレゼントしたいと考えている。黒坂さんは「報道でガジュマルが折れていることを知った。本当に残念だ。コカリナを通して、後世にガジュマルを残していけたらと思う」と話した。
 (金城大樹)