prime

ウクライナの人口問題 急減続き危機的状況<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
佐藤優氏

 過去30年強でウクライナの人口が急激に減少している。このことについてロシア紙「イズヴェスチヤ」(電子版、2023年8月9日)に興味深い記事(アンドリー・クズマク氏執筆)が掲載されたので紹介する。ロシアとウクライナは戦争中だが、この記事は実証性が高く信頼できる。

 <今週初め、ウクライナの人口動態に関する新たな調査結果が発表された。ジェームスタウン財団(JF、この団体はロシア連邦で好ましくない組織と認識されている)が行った分析によると、1991年以来、同国の人口は2・5分の1に減少している。そして、特別軍事作戦の要因は決して決定要因ではないことが判明した>ということだ。

 驚くべきことにウクライナ政府は1991年12月の独立後、1回(2001年)しか国勢調査を行っていない。

 <ウクライナの人口の規模と構造の変化に関する調査は、多くの点で非常に概算的なものであることに留意すべきである。これは主に、この問題に関する公式データがないためである。主権国家ウクライナの歴史上、唯一の国勢調査は2001年に実施された。この時、4845万7千人が数えられたが、これは独立時よりも400万人少ない。/その後20年間、いくつかの分析結果が発表され、2019年には「電子国勢調査」が実施された。その結果によると、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国、クリミアの住民(合わせて約570万人)を除いた3728万9千人が記録された。従って、損失は18%に達した。同時に、多くの専門家や政府関係者が、国勢調査の結果は改ざんされたものであり、ウクライナの人口の実数はもっと少なく、動態はもっとネガティブであると繰り返し述べている。当時の国民数は約3千万人と推定されていた。

 2022年2月以降に実施された調査結果と公式統計は、当然のことながらさらに異なっている。ウクライナ未来研究所(UIB)は6月初旬に発表した報告書で、この数字を2900万人とした。しかし、人口学・社会研究所のエラ・リバノヴァ所長は12月に、2017年には既にウクライナ人は2800万人を超えていなかったと述べている>

 ウクライナの人口減少がもっと多いという見方も存在する。

 <トランプ政権で最も影響力のある軍人の一人、ダグラス・マグレガーは、ウクライナ国民は2千万人以下しか残っていないと述べた。ジェームスタウン財団の報告書の専門家も同様の結論に達している>

 ウクライナ戦争によって、1100万人程度の難民や避難民が発生したとみられている。ウクライナに平和が訪れ、これらの人々が帰国してもウクライナ人口の増大は望めないというのがクズマク氏の見方だ。

 <仮にウクライナが突如として社会的安定の時代に突入し、ウクライナを離れた国民が全員帰国すると想像しても、破滅的な少子化状況による人口急減の傾向には事実上何の影響もないだろう。同国の出生率は0・7まで低下している(人口増加はパラメータの値が2より大きい場合に起こる)。しかもこの指標は2013年以降、毎年7%ずつ減少している>

 ウクライナ戦争が続く限り、ウクライナ人の出生率が劇的に増加することは考えがたい。

 米国はウクライナが人口学的に危機的状況にあることを十分認識しているはずだ。このような状況で米国を中心とする西側連合がウクライナに殺傷能力の高い兵器を供給し、戦争を長引かせることが、結果としてさらなるウクライナ人の減少をもたらす。

(作家・元外務省主任分析官)